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本音と建前、でも本音



負を抱える世界を救うための旅に、そろそろ終わりが見えようとしている。
この旅が終わったら、ルークはグランマニエに帰らなければならない。
仮にも王族だ。
王族としての仕事をアドリビトムで行うには少し無理があるし、ルークのことを気に食わない貴族たちも黙ってはいないだろう。


机に向かい書類を片づけながら、ルークは考える。
今日はクエストも剣の稽古もなしにして、溜まった書類に目を通すことにしていた。
ジェイドがお目付け役として机の傍に立っているが、文献を読んでいるようでルークに気を配ってはいないようだ。
淡々と書類を片づけていると、考えたくないことまで考えてしまう。


正直な話、ルークはできることならずっとここにいたかった。
アドリビトムの一員として、できることは少ないけれどみんなの役に立ちたい。
けれど、そうもいかないということもわかっている。
幼いころから教えられてきた王族としての責務を、放り出すつもりはない。


それでも。



「ワガママ……なのかな」


「何がです?」


「うわっ! 本読んでたんじゃないのかよ」



ぽつり、と聞こえないように零した独り言に反応され、ルークは顔を上げる。
幼いころからの家庭教師兼護衛は本から目を離さず応えた。



「読んでますよ? 貴方の独り言が大きすぎて耳に入ってきたんですよ」



ウソだ……と顔を引きつらせる。
飄々と顔色一つ変えない男に肩を落とした。
この男がどんな声も拾う地獄耳なのを忘れていたルークが悪いのだろう。


何も言わずまた書類に目を落とすと、ジェイドがやはり本から目を離さず言った。



「何がワガママなんですか?」


「どうだっていいだろ。ただの……ただの独り言だよ」



言ったところでどうにもならないことを、ルークは知っている。
ジェイドがいくら破格だとはいえ、国を動かせるはずがない。


影を落とした返答が気に入らなかったのか、ジェイドは勢いよく本を閉じた。
パンっと小気味いい音が二人だけの部屋に響く。



「あ、ジェイ、ド……?」


「少し休憩しましょうか。親善大使殿はお疲れのようですし」



笑みを浮かべ提案するが、その目は全く笑っていない。
どこかで彼の地雷を踏んでしまったらしい。
仕事をするからと部屋からガイたちを追い出してしまったのは間違いだったと今更後悔する。


ジェイドはルークと向かい合う形で立つと、真っ直ぐに翡翠の瞳を覗き込んだ。
ジェイドの赤い瞳に射抜かれると何もかもを見透かされているような気になる。
ルークは目を逸らそうとしたが、ジェイドの強い視線がそれを許さなかった。



「さてルーク。今度は何を抱えているんですか?」


「……ずいぶん直球だな」



らしくないと言えば彼は苦笑して。



「そうですねぇ。どこかの誰かさんが遠まわしに言っても気づかないほどの鈍感なので、直接言うしかないんですよ」


「悪かったな」



それで、とジェイドは話を戻した。
ウソをつくのが苦手なルークはため息をひとつ零して、ぽつりぽつりと話しだす。
終わりが近づく旅に覚える不安、アドリビトムでの生活との別れ、仲良くなった仲間との別れ。
永遠に会えなくなることはなくても、自由に会えることはなくて。
それが少しだけ、淋しい。



「やれやれ……」



呆れ返ったその言葉に、肩が揺れる。
まるでジェイドが家庭教師につく前のようだ。
あの頃は常識すらままならなくて、何度も家庭教師を呆れさせた。
そのとき絶えず零されていたため息はルークの中でトラウマになっている。
ジェイドが家庭教師になってからはすっかり忘れていた、それ。



「貴方はとんだ大馬鹿者ですねぇ」



続いた言葉には、紛れもない苦笑が滲んでいた。
レンズ越しの瞳は彼にしてはありえないほど柔らかく細められている。



「望みは口に出さなければ叶いませんよ。そして貴方は、身勝手な願いを現実にすることができる立場にある」


「でも、オレは王族で……!」


「王位継承権を持つとはいえ上位にいるわけではありませんし、ピオニー陛下は殺しても死なないでしょうから大丈夫ですよ」



仮にも自国の主に向かってその言い草はないだろう、とどうでもいいことが脳裏の片隅によぎった。
頭が混乱しているらしい。
これでは、これからもアドリビトムにいてもいいと言っているも同然だ。
そんなことはありえないと、今まで必死に否定してきたのに。



「貴方が望むなら、私はその願いを叶えるために最善を尽くしましょう。ただし、皇帝勅命となれば逆らえませんが」



ジェイドが、らしくない言葉を吐く。
ルークは泣きそうな顔で笑った。



「ただしってつけるところがアンタらしいよな」


「ええ。抜け目がないのが私の強みですので。それではルーク、貴方の望みは?」


「オレ、は……」



優しい瞳に促され、それを口にする。
怖かった、押し潰されそうで。
投げ出したかった、本当は。
王族じゃなければ、貴族じゃなければ。
ずっとずっと考えていた。



「ここに、いたいよ。アドリビトムで、みんなと一緒にクエストしたり稽古したりして、笑い合ってたい……!」



投げ出すつもりなんかない。
それでも逃げる場所が欲しかった。



「よくできました」



幼児を褒めるような口調で言った家庭教師兼護衛は、幼い頃のようにくしゃりと朱金の頭を撫でた。
子ども扱いされて悔しいはずなのに何故か涙が零れそうになって、ルークは必死で俯いた。


こんなときに優しくされるのは、卑怯だ。






+end+






+++++



マイソロ設定でジェイルク!
実はやったことなかったり(笑)
深淵ではジェイルク本命なんだけどなぁ……
でもシンルクとかピオルクが美味しすぎる(じゅるり
マイソロ2ではるーくんはなんか王族王族って一生懸命だったので、実は王族としてのプレッシャーがめちゃくちゃあったんじゃないかなーと。
アドリビトム来てからのルーくんはそんなのから解放されて、みんなから可愛がられて(妄想)、残っていたいって思うんじゃないかな。
マイソロ2クリアしてませんが(爆)


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