他の誰でもない君が
「お前は俺の劣化レプリカなんだよ!」
それが何だというのだ。
嫌悪に眉をひそめ、幸村はその言葉を発した本人を見やる。
彼はルークと似たような顔に勝ち誇った笑みを浮かべている。
醜悪な表情に反吐が出そうだった。
彼はこれまで散々自分たちに剣を向けた「敵」だ。
誰が敵の言葉を信じるだろう。
しかし、そう思ったのは幸村たちだけだったようで、ルークを守るべき使用人も、ルークに愛を囁き続けた婚約者も、媚を売っていた導師守護役も、ルークを見下し続けた軍人も、口だけは立派な一般兵も、ルークを汚いものでも見るかのような目で見ていた。
その目に浮かぶのは軽蔑と失望。
あまりに的外れな感情にいっそ笑いたくなってしまうほどだった。
彼らの視線に怯え、ルークが震える。
ちらりと部下を見てルークを任せる旨を伝えると、幸村は彼らの視線からルークを庇うように前に出た。
体の中では煮えくり返る怒りを抱えながら、幸村の心は凪いでいた。
今までに感じたことのないほどの怒りだからだろうか。
今ならば魔王ですら一撃で仕留められそうな気がする。
幸村の怒りがわかったのか、同じく怒り狂っているはずの政宗は口を挟まなかった。
「だから何だ」
槍の位置を確かめる。
誰かが剣を抜けばすぐに応戦できるように、だ。
幸村の言葉にいきり立った紅い男が、剣を抜いて噛みついてくる。
「何!?」
「貴様はルーク殿ではござらん。ルーク殿でない貴様に用はない」
「何言ってやがる! アイツは俺の偽物……出来損ないの屑なんだよ!」
同行者たちも紅い男の言い分に同意するように頷く。
その後ろで、幼い導師が悲しそうに俯いていた。
導師に冷たい一瞥をくれたあと、幸村はさらに冷たい視線を男たちに向けた。
「ルーク殿はルーク殿だ。偽物だろうと何だろうと構わぬ。某にとって大切なのは貴様ではなくルーク殿にござる故!」
守りたいと思った。
無垢な瞳を翳らせたくないと。
この血塗れの手でも、彼の綺麗な心を守れるなら、それで。
子供が「何」であるかなど、幸村には関係ない。
それはきっと、部下も好敵手もその腹心も、同じに決まっているのだ。
「ルーク殿を傷つけるのであれば、この幸村、許すことはできぬ!」
叫べば、男が斬りかかってくる。
幸村はすぐに二槍を取り、剣を受け止めた。
そのまま勢い良く振り払えば、男は吹っ飛び受け身も取らずに壁に衝突した。
気を失っていないのは無駄な生命力の表れだろうか。
うるさい口ならば閉じていればいいものを。
心の中で呟いて舌打ちをした。
「何をしますの! アッシュ……ルークはキムラスカの侯爵子息ですのよ!」
王女が金切り声をあげた。
あれがルーク・フォン・ファブレだというのなら、七年間愛を囁いてきた彼を何と呼ぶつもりなのか。
あっさりと手のひらを返した王女に苛立ちが募るのを、幸村は二槍を地面に打ち付けることで堪えた。
槍がめり込み地面が揺れる。
同行者たちが身を竦ませた。
「散々我らに剣を向けておきながら何を言う! 自国の民に剣を向ける王など、王となる資格も持たぬ!」
何のことだ、と男と王女の視線が問う。
カイツールというところを完全な私情で襲ったことを忘れたとでもいうつもりなのだろうか。
政宗が嘲りを込めて鼻を鳴らした。
「Ha! テメーは自分のしたことも忘れたってのか? happyな頭してやがる」
「……馬鹿にしやがってっ!」
「ルークは何もしておりませんわ!」
まったく自覚がないようだ。
政宗が呆れてため息をつき、小十郎がやれやれと頭を抱えた。
幸村は変わらず冷めた視線で醜悪な同行者たちを見ていたが、あまりの醜悪さに見る価値もないと背を向ける。
ルークの元へ行けば、同行者たちの罵りがひどくなった。
だからといって、気にする幸村ではないが。
「ルーク殿」
佐助に肩を抱かれ、支えられているルーク。
俯き膝を抱えるその仕草からは、彼の表情は窺えない。
幸村がその前にしゃがむと、大きく肩が震えた。
「大丈夫でござる。ルーク殿がルーク殿であることは某たちが一番よく知っているでござるよ」
突然この世界にやってきてしまった幸村たちを救ってくれたのは、他でもないルークなのだから。
そう言えば、ルークは顔をあげないまま一度だけ頷いた。
佐助が優しく頭を撫でてやると、ほんの少し雰囲気が和らぐ。
後ろで何か騒ぐ音がしたが、刀を抜く音とともに静かになった。
+++++
アンケート四位、こっそり戦国×深淵でした。
コメントで仲間厳しめ書いてみては? とあったので、ちょっと挑戦してみましたが……。
私の技量ではとてもとても。
これ、一応仲間厳しめになってます?
とりあえず、ルークはルークだっていうことが書けたので満足。
幸村は怒りの沸点越しちゃったら、静かに怒るタイプだと思います。
それこそ手がつけられないくらいに。
2010.03.22.
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