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不安は常に付きまとうけれど、結局君が好きなんだという話



結局お互いしか見ていないのだと、ずるい俺は知っている。
それを告げずに君が縋るのを見たいのは、痛みさえ愛おしいから。






【不安は常に付きまとうけれど、結局君が好きなんだという話】






気持ちなら誰にも負けない。
俺は誰よりもアンタが好きだし、アンタの特別であるという自負がある。
アンタに愛されているのだと、自信を持って言うことができる。


けれど。


時々、不安になることがある。


アンタは本当に、俺のことを愛しているんですよね?


気持ちを疑うわけじゃない。
だって、俺はアンタの恋人で、特別なんだ。
男同士の恋愛に、アンタが冗談で応えるはずがない。


だけど、それでも、アンタが周りに向ける笑顔は俺と変わりがないから。
アンタの庇護下にある子供たちだけでなく、顔を合わせれば喧嘩を始める男にさえも、優しげな視線を向けるから。
アンタの魂の琴線に触れたものを、アンタは無条件で迎え入れるから。


俺は、怖くなってしまう。


アンタは俺を愛してくれている。
だけどそれは、どの程度?
俺が思うのと同じように、誰よりも?
他の誰かと比べて俺を選んでくれる?


俺を、俺だけを見て、考えて、愛して。
俺以外、貴方の視界に入れないで。






らしくなく泣きそうな顔をして、沖田君はそう言った。
俺を押し倒して、両腕を顔の横で拘束している。
無理やり襲ってきているというのに、沖田君は縋るような表情で俺を見下ろす。



「好き、好き、愛してます」



赤茶の瞳が潤む。
いつも人をからかって自分の感情は見せようとしない彼が、よりによって涙を浮かべている。
この状況は笑うべき場面ではないと思うのに、頬が緩むのを抑えられない。


沖田君は俺の表情など見ておらず、溜まりに溜まった不安をただ吐き出す。



「俺だけを見て。俺だけのこと、考えて。アンタの全部、俺だけでいっぱいになって下せェ」



我慢していた口元が、今度ははっきりと笑う。
真剣に言う沖田君には悪いかもしれないが、俺は今笑いだしたい気分だ。
歓喜の感情が俺を支配する。


だって、ねえ。


子供がお気に入りのおもちゃを取られたくないというような、混じり気のない独占欲。
どろどろと醜くもあり、その分純粋で。
感情をうまく表せない子供の、不器用な愛情表現だ。


それが嬉しい。


だって、不安なのは沖田君だけじゃない。
俺もいつも不安なんだ。


沖田君は俺より年下で、かっこよくて、未来有望な青年で。
俺は沖田君より年上で、無職のおっさんで、そのうえマダオで。
男の俺なんかよりも、いい女なんかいくらだっているんだ。
沖田君がいつ俺から離れていくのか、怖くて仕方がない。
君が俺だけを見てくれるならって、いつも考えている。



「好きだから、ねえ、旦那」



触れる唇は甘いのに切なくて。
息が止まりそうな苦しさを覚える。
好きだという言葉だけじゃ、この想いを説明するには足りない。



「沖田、く……」



長く長く、呼吸を奪う唇に、俺もしっかりと応える。
同じだけの強い想いを、切なさを、不安を、そして俺の感じた嬉しさを、知ってほしい。


沖田君は知らないだけだ。
俺がどれだけ君を好きか。
君の言葉一つで一喜一憂して、君に会えないだけで調子が出なくて、君を見かけるだけで幸せな気分になれること。
君が告げた不安が、俺の心を満たしてくれること。
俺はいつだって、君のことを考えているんだって。



「……は、あっ」



さすがにもう呼吸困難に陥りそうで、身を捩って抵抗を試みる。
放してほしいという意思表示に、沖田君は躍起になって俺を押さえつけた。
少し力を込めれば簡単に引き剥がせるはずなのに、何故か沖田君の力に敵わない。
生温かい舌が俺の中をぐちゃぐちゃに引っ掻き回す。
息を継ぐほんの数秒で、沖田君は何度も俺を呼んだ。


俺の顔がどちらのものともつかない唾液でいっぱいになる頃、やっと沖田君からお許しが出た。
俺も沖田君も肩で息をしている。
沖田君の両手は、まだ俺を離さない。



「このまま、」


「ん?」


「このまま旦那を鎖で繋いで、監禁しちまいてェ」


「いやいやいや、それ犯罪だから。君警察でしょ」


「だけど、そしたら旦那は俺だけ見てられるだろィ?」



狂気とも取れるその言葉に、俺が感じたのは喜びだった。
それほどまでに沖田君の想いは強いと、確認できる言葉だから。


緩く口元に笑みを浮かべて、俺は沖田君を見返す。
潤んだ瞳からは、それでも涙は零れていなかった。



「バカ」


「バカで悪かったですねィ」


「うん、ホントにバカでガキだ」


「うるせェや。人のコンプレックスつつきやがって」


「だってさ、沖田君。んなことしなくても、俺ァお前のことしか考えてねぇよ」



沖田君の目が驚愕に見開かれる。
その拍子に溜まった涙が落ちて、綺麗だな、と全く関係ない思考が脳裏をよぎった。



「旦那、嘘ついてるとか言ったら殺しやすぜィ」


「嘘じゃないから。つか、そんなことで人を殺すな!」



物騒な子供だ。
呆れてため息をついた頃には、沖田君は滲んだ涙を見せることもなく、普段と同じ大人をなめた子供の顔をしていた。
調子が戻ってきたらしい。
両手の拘束が少し緩んだ。



「だって旦那、アンタ普段そんなこと言わねーじゃねェですかィ」


「言わなきゃお前泣くだろ」


「泣かねェよ」


「じゃあこの涙の跡は何ですかー」



緩んだ拘束から難なく逃げ出して、頬に手を当て、親指で涙の跡を辿った。
沖田君はくすぐったそうにしながら、飼い主に撫でられて喜ぶ子犬のように目を細める。
こういうときの沖田君はすごく可愛い。



「さっきまでずっと泣きそうな顔してたくせに」


「そりゃ旦那の勘違いでィ」


「あのなー……」



言葉を続けようとした唇が、そっと塞がれる。
さっきのように呼吸を奪う荒々しいキスじゃなく、触れるだけの、それ。
蜂蜜色の髪が頬を掠める。



「旦那の気持ちはよーくわかりましたんで。もう何も言わなくていいですぜィ。隠してるようですが耳真っ赤だし」



指摘されて、耳だけにとどまっていた熱が一気に顔中に広がる。
バレていたのか、と問いただす気にもなれない。



「その調子で俺のことだけ考えててくだせェ」



俺ァ今まで以上に旦那を振り回しますんで。


続いた言葉に反論しようとしたものの、子供のように無邪気な笑みを見て言葉を失ってしまう。
言わなきゃよかった、よぎった後悔もこの笑顔の前では霞んでしまう。
どうにもこうにも、俺はこの男に弱いのだった。






切なさの混じる甘い苦しみも、君からもらえるのだとしたら、それは。





+end+






+++++


なんか間違えた。
いろいろと。
切ないのを書きたいなぁ……と思ってたはずなのですが、銀さんが意外に素直になっちゃったため、こんなに甘くなりました。
なんか違う……。
つか、なんでこんな甘ったるいんだろう、うちの沖銀……。
と、とりあえず、一万打ありがとうございました!!
フリーですので、お持ち帰りどうぞです。
ご報告くださるともっと嬉しいです。





2009.5.24. フーリ 拝

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