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あひるの危機を回避せよ






 もうこれで一週間になる。空き時間ができるたびに銀時の元に足蹴く通っていた男は、一週間ほど前からぱたりと姿を見せなくなった。食堂にもなかなか現れないし、部活の方にも来ていないらしい。以前は必ずと言っていいほど食堂で見かけたし、学部が違うのにわざわざ銀時の活動範囲である文学部にまで押し掛けていたくらいだ。高杉に聞いた話だと、真面目に来ていた部活もさぼっているのだそうだ。
 沖田が来なくなって数日は、課題を邪魔されることもなくなって清々したと思っていたのだが、一週間にもなると不安になってくる。何かあったのではないかとか、病気にでもなったのだろうかとか。
 毎日毎日、銀時が嫌がっても邪険にしても冷たくしてもしつこく追ってきて、銀時の生活をこれでもかというほど引っかき回したくせに、いないならいないで、結局心が乱されている。課題もそこそこに沖田のことを考えている自分に気づくのだ。
 腹立たしい、と思う。沖田にこんなにもかき乱される自分が、銀時をこんなにもかき乱す沖田が。
 イライラと発散できない感情が募っていき、さらに数日たったある日、ついに爆発した。沖田の友人である土方をとっ捕まえて彼の居場所を聞き出し、直接沖田のところに乗り込んだのだ。
「ぎ、銀時さん!?」
 参考書その他のプリント類に囲まれた沖田は、突然の銀時の登場に目を丸くした。
 それもそうだろう。沖田がいるのは理学部の学習室なのだから。まだ研究室に属していない二年生が専門科目を勉強するのにちょうどいいのがこの場所だった。当然のことながら、違う学部の学生が入ってくることは滅多にない。部屋には沖田以外に学生がいなかったことが幸いだろうか。銀時にはそこまで気にする余裕はない。
「どういうつもりだよ、お前」
 吐き出された声は低く、怒りが漏れ出ている。沖田が無意識に身を固くしたのを認め、ますます怒りが募る。
「あんだけ毎日毎日押し掛けてきといて、テメェの都合でパーですかコノヤロー。興味がなくなったんならなくなったで一言言ってけってんだよ!」
 一気に言ってのけると、沖田はきょとんと目を瞬かせる。そうするともともと幼い顔がますます幼くなって、銀時の好きな表情になる。言ったことは一度もないけれど。
 沖田が茫然としていたのはほんの数拍のことで、次の瞬間にはひどく嬉しそうに破顔した。
「もしかして銀時さん、心配してくれたんですかィ?」
「はぁ?」
「だって、俺が来なくなったの気にかけてくれたってことだろィ? そんだけ俺の存在があんたの中にあるってことですよねィ」
「ち、違……!」
「それって、あんたも俺のことが好きって受け取ってもいいんですよねィ」
「そ、んなの……」
 違う、とは言いきれなかった。付きまとう彼の姿がなかっただけで、銀時はひどく落ち着かなかった。無意識に沖田を探し、求めていたから。
 言い淀んだそれをしっかり肯定と受け取り、沖田はますます嬉しそうに頬を緩ませる。図星を指されたことと、この世で一番幸せだ、とでも言いだしそうな表情が腹立たしくて、銀時は近くにあったペットボトルを投げつけた。空のペットボトルが宙を舞う。あっさり受け止められてしまったが。
「危ねーじゃねェですかィ」
「沖田くんが悪い!」
 もしかして嫌われたのか、とか、何かあったんじゃないか、とか。気に病んだ自分がバカみたいだ。顔に熱が集まるのがわかる。絶対に赤くなっているだろう。
 空のペットボトルをゴミ箱に捨てた沖田は、プリントの山をかき分けて、出て行こうと背を向けた銀時を引きとめる。後ろから抱きこまれるように手をつかれて、銀時の方は大袈裟なくらいに跳ねた。
「俺があんたの所に行けなかったのは、中間が大変だったからでさァ。理系ってのは中間を落としちまうと単位に響くんでィ。あんたに会っちまったら勉強なんてしてられなくなるのはわかってましたからねィ、泣く泣く会わないことに決めたんでさァ」
 嫌いになったわけではないと、むしろ好きだからこそ会いに行けなかったのだと、沖田は言葉を紡ぐ。ただの言い訳のはずが、そこに込められた甘い響きに背筋が震えた。どくんどくんと胸が異様な速さで早鐘を打つ。決して手は触れていないのに、触れられているような気分になって、銀時は何かを振り払うように頭を振る。
「それであんたに心配かけたってんなら謝りまさァ。でも、知っておいてくだせェ」
 沖田はそこで言葉を切り、扉についた手をドアノブにある銀時の手に重ねた。ずっとシャーペンを握っていたらしい手は、じんわりと温かい。そのぬくもりにまた羞恥が募る。
「俺があんたを嫌うなんてありえません。――俺はあんたのことを愛してますから」
「――!」
 その言葉が、限界だった。
「わかった。わかった、から!」
 沖田の手を振り切り、学習室を出る。周りの目も気にせず、理学部等を駆け抜けた。さっきとは違う意味で顔が赤くなっているのがわかる。今度は絶対にやり返してやる、と心に決めながら、今は逃げることしか考えられなかった。






+end+






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大学生設定沖銀のラブラブハッピーエンド? です!
クエスチョンマーク付けるなっていう。
結構最初からくっつくときはこういう風にしようっていうのは考えていました。
銀時は告白してないですけどね!←
リクエストしてくださった方のみお持ち帰り自由ですー。
ありがとうございました!!


お題はTV様よりお借りしました。






2011.06.22.

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あきゅろす。
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