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誰かのために祈る君






馴染みの居酒屋へと向かうと、目に入ったのは銀色で。
路地裏の隙間で、壁に背を預けるようにして空を見上げていた。
心が騒ぐのよりも先に、見たことのない表情に目を奪われる。



「万事屋……? 何やってんだよ、こんなとこで」



つい声をかけてしまった。
銀時は目に見えるほど体を震わせ、こちらを振り向いた。
土方を映しているはずの瞳は虚ろで、人を小馬鹿にしたような雰囲気も今は全く感じられない。
土方は様子のおかしい銀時に近づいていく。
しかし、銀時は土方に気付いた様子もない。



「おい、万事屋!」



声を張り上げれば、ようやく赤い瞳が土方を映す。
口元を歪めた表情は、笑みとは似ても似つかなかった。



「ああ。土方くんか」



視線を逸らし、土方を見ようともしないその姿からは、明らかに彼が弱っているのが見て取れる。
普段とは違う姿に、苛立ちを覚えた。


何があったのか、なんて、土方が訊けることではない。
訊いたところで、何でもないと言われてしまえばそこでおしまいだ。
土方は銀時のことが好きだけれど、土方と銀時の関係はお世辞にもいいものだとは思えないからだ。
何かがあって弱っているのは明白なのに、土方には何もできない。
そんな自分に苛立つ。


いつもの癖で舌打ちをすると、目の前の銀色が反応したような気がした。
しかし、視線は外したまま。
あくまで土方を映さないその瞳にも苛立って、唇を噛みしめた。
血の味が口内に滲む。



「……土方くんさ、何か用なわけ? 用がないならさっさと行ってくんない? 俺も暇じゃないんだけど」


「こんなとこでぼーっとしてんのにか」


「銀さんは土方くんと違って思慮深いからね、ここで考え事してんの」


「誰が思慮深……」



軽口を叩く元気くらいはあるらしい、と安堵したのも束の間、銀時の表情を見て言いかけていた反論も消えてしまう。


泣きそうな顔を、していたから。
言葉を失う。



「万事屋、お前」


「うるせー。帰れ」



聞こえた声音は聞いたこともないほど冷たく、土方は思わず息を飲んだ。
その音に気付いたのか、銀時は困ったように頭を掻く。



「わり……。ホント、何でもねぇから。俺に構わないでくれる?」



銀時ははっきりと拒絶を示していて、土方には何も言えなかった。



「……そうか。俺の方こそ、悪かったな」



そう言って、銀時に背を向けることしかできなくて。
背後で堪え切れなくなった嗚咽が聞こえる。



「高、杉……っ!」



背後で銀時が泣いているのに、見て見ぬふりをするしかなかった。






+end+






+++++



アンケート三位、原作設定土銀でした。
土銀っていうか、高←銀←土になってますが(汗)
切なめ切なめって考えてたらこうなりました(何故
銀さんが弱ってるのに、弱みに付け込めない土方はヘタレだと思います。
土方はヘタレであってこそですよね!←
投票くださった方、ありがとうございました!
これからもきっとこんなノリだと思われます。
フリーですので、じゃんじゃんもらっていってくださいませ!


お題はTV様からお借りしました。






2010.04.07.

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あきゅろす。
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