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サラリと言わないで欲しい



相変わらず仕事のない万事屋。
新八が掃除をしながら小言を言い、銀時はソファに寝転んでジャンプを読んでいて、神楽はテレビに夢中になっている。
そんないつもと同じ光景の万事屋に、思わぬ客が現れた。
新八の姉、妙が訪れたのだ。
しかも、どこかイイ笑顔で。



「どうしたんですか、姉上」


「今日は銀さんに用があってきたの」


「何、俺?」



妙が向かいのソファに座ったのと同時に、銀時は身を起こした。
そして、妙はここに来た用事を話しだした。



「ホストクラブぅ!?」


「そう。ねぇ、銀さん。ちょっと行ってみませんか?」



ひょんなことから妙に惚れ、彼女にまとわりつくゴリラが、実はホストだったとかで。
ストーカーまがいのことをしたお詫びにということで、妙はゴリラが働いているホストクラブに招待されたらしい。
ナンバー1ホストを優先的につけてくれて、どれだけ飲んでも無料だという。
せっかくの申し出なので行こうと思ったのだが、妙も一人で行くのは嫌なので、銀時を誘いに来たのだそうだ。


女らしい格好をしないとはいえ、銀時も女だ。
ホストクラブに行くことがおかしいわけではないが。



「めんどくせ、」


「銀さん」



行きたくないと言おうとすれば、有無を言わせない口調で黙らされる。
にっこり微笑む彼女の笑顔は凶悪だった。



「銀さんだって女の子なんですよ。少しはそれらしくしないと」


「そうアル! 銀ちゃんの女の子姿みたいアル!!」



テレビにかじりついていた神楽が、銀時にのしかかってくる。
キラキラと目を輝かせて飛び跳ねる。
新八も妙に賛同して頷いた。



「姉上の言う通りですよ。行ってみてもいいんじゃないですか?」


「銀ちゃんおめかしアルな!」


「とびっきり可愛くしてあげますね」



大切な子供たちと、凶悪な友人に迫られて、銀時は頷くしかなかった。






+++++






「ここがそのホストクラブですよ」



妙に着替えさせられ、嫌々ながらに連れてこられたのは、高天原というホストクラブだった。
高天原には万事屋の仕事で何度か来たことがあったから、銀時は小さく安堵の息を吐いた。


銀時はホストという生き物があまり好きではなかった。
告げる言葉は偽りばかりで、けれどそれは甘く優しい言葉だから信じたくなる。
信じても、そこに真実は一つもないというのに。
かぶき町で万事屋をやってきて、何度かそういうトラブルの依頼を見てきたから、なおさら苦手意識は募っていった。
女としてよりも男として生きてきた時間が長いというのも、理由の一つかもしれない。
今日も妙に押し切られなければ行かなかっただろう。


憂鬱な気分で、自分の服を見下ろした。
妙に着替えさせられた銀時は、いつもの和洋折衷の服装ではなく、淡いピンクの生地に桜の模様が入った着物を着ている。
帯は薄い水色で、ピンク色の着物によくあっている。
銀色の髪がネオンに照らされ、キラキラと反射していた。


妙は銀時よりも強い色のピンクの着物に、朱色の帯を巻いている。
ホストクラブに行くからなのか、いつも以上に気合を入れているようだ。



「ほら、銀さん。行きますよ」


「いだだだだだ……! ちょ、痛い、痛いから!」



妙は行きたくないという気持ちを見抜いていたようで。
骨が折れそうなほどの力で手首を掴まれ、店の中に連れて行かれた。
中に入った途端に、大勢のホストに迎えられる。
顔がよくて笑顔も爽やかで、輝いているように見える。
その中に、あのゴリラの姿もあった。



「いらっしゃいませ、お妙さん!!」


「あら、ホストクラブなのにゴリラがいるようね。保健所に連絡しないと」


「お妙さぁぁぁぁん……」



ホスト達はこのやり取りに苦笑いで応え、慣れた様子で銀時たちを席に案内した。
促されるまま座ると、それぞれ両隣にホストが座る。
必然的に妙とは席が離れてしまう。
彼女にはゴリラが迫っていた。


苦笑を浮かべて、銀時は見慣れてしまった光景から目を逸らした。
ぼんやりと両隣のホストを眺める。
片方は茶髪で甘いマスクの、幼さの残る青年。
こっちは甘く微笑んで酒を作り始めた。
もう片方は黒髪でホストのくせに不愛想な青年だ。
銀時とさほど年も変わらないかもしれない。



「はい。これは甘いんで、気にせず飲んで大丈夫ですぜィ」



茶髪の青年が酒を差しだす。
銀時は礼を言って受け取った。


茶髪の彼はソウというらしい。
黒髪の方はトシーニョだそうだ。
変な名前、と笑うと、思い切り睨まれた。



「店長が勝手に決めたんだ。俺は気に入ってねぇ」


「でもトシーニョさん、オフの日でもそれ反応してやしたよね? 存外まんざらでもねェんじゃねェですかィ。もう改名しちまえよ」


「誰がするか! つーかテメーがトシーニョに改名しろ!」


「そんなダサい名前ごめんでさァ」


「テメェェェェェ!!」



挟まれた銀時を放置して、二人の言い合いはエスカレートしていく。
客を放置するホストなんて聞いたこともない。
ホストらしからぬ彼らに、銀時は思わず声をあげて笑った。



「う、くくく……っ。お前ら、マジでホストなわけ? あは、はははっ。ありえねー!」



腹を抱えて笑う銀時に、二人はバツが悪そうに目を逸らした。
それでも目が合うと睨み合うのを忘れない。
それがまたおかしくて、銀時は酒を飲むどころの話ではなかった。


ひとしきり笑い、銀時がやっと落ち着いた頃、ソウが別のテーブルに呼ばれた。
すみません、と謝ってから、彼は席を立つ。
残されたのは、トシーニョという変な源氏名のホスト。
周りを見れば、いつの間にか妙とその周りにいたホストがいなくなっていた。



「あれ、妙は? つーか、ここ俺たちだけ?」


「ああ、コンディがドンペリ零して着替えに行ったみてぇだからな。少しすりゃ戻ってくんだろ」


「ふぅん……」



ほんの少しの安堵を感じながら、ソウが作った酒を飲む。
甘いそれは果実酒らしかった。
なかなか美味しい。
酒も好きだが、それ以上に甘いものが好きな銀時だ。
グラスを口に運ぶペースが上がる。


それを黙って見ていたトシーニョが、静かに口を開く。



「甘い酒が好きなのか?」


「甘い酒……つーより、甘いもんが好き」



じっと闇色の瞳に見つめられる。
何故か気まずくて、目を合わせずに答えた。
銀時の態度に気分を悪くしたふうでもなく、トシーニョは近くを通ったボーイに何かを頼んでいた。


それが不思議で彼に視線を向けると、にやり、と目が細められる。
その仕草がひどく様になっていて、ホストなんだな、と改めて思った。


しばらくすると、今銀時が飲んでいるのと同じ酒と、いくつかのケーキが運ばれてきた。



「ケーキ……!」



目を輝かせてケーキを見つめる銀時に、トシーニョが喉で笑う。
それにムスッと頬を膨らませるが、ケーキの誘惑には勝てない。
食べていい? と視線で問うと、好きなだけ食え、と返ってきた。



「うまいか?」


「うん! 幸せ……っ」



大好きな甘味に、銀時は蕩けた笑みを浮かべる。
それを目の当たりにしたトシーニョが言葉を失ったのには全く気付かないまま、ペロリとケーキを完食した。


幸せを噛みしめながらグラスを傾ける。
甘い酒は、カフェドパリというワインなのだそうだ。
一万円もするというから、思わずグラスを取り落としそうになった。
驚く銀時が面白いのか、トシーニョは声をあげて笑う。
なんだか調子が狂う、と銀時は内心ため息をついた。



「多串くんってホストっぽくないよね」



銀時の言葉に、トシーニョは眉間に皺を寄せた。



「多串って誰だ、多串って」


「だってトシーニョって変じゃん」


「うるせぇよ」



不機嫌そうな声音に笑いで返して、それで、と話を続ける。



「ホント、らしくないっていうかさ。他の奴みたいに甘い言葉とか言わないし」


「言ってほしいのか?」


「いいや、全然」



ゆるりと首を振り、銀時はトシーニョを視界に収めた。


他のホストとは違い、トシーニョは上辺だけの甘い言葉を囁くわけでも、ドロドロに溶けそうなほどに甘やかすわけでもない。
不愛想に顔を顰めて、素のままで過ごしているようで、銀時にとっては心地がいい。



「そう言うお前は女らしくねぇな」


「……そりゃ、銀さんはかぶき町きっての万事屋ですから?」


「なんだそりゃ」



ほんの少し、欠片ほどに気にしていたことをつつかれ、咄嗟に返す言葉を失う。
茶化して答えるとトシーニョが笑ったので、銀時も小さく息を漏らして微笑む。
微笑んだ銀時に何を思ったのか、トシーニョはおもむろに銀色の髪に手を伸ばしてきた。
好き放題に跳ねる天然パーマに、ごつごつした男らしい指が絡む。



「でも、そっちの方がお前らしくていいな。可愛い」



心臓が、止まるかと思った。
トシーニョの手を振り払い、何かを誤魔化すようにケーキに手を伸ばす。


普段女として扱われることのない銀時は、不意を突かれた気分だった。
可愛いなんて言葉は、言われたことがなかった。
嘘だと、仕事だから言っているのだと、頭では理解しているのに、心臓が高鳴ってしょうがない。



「どうした? 耳まで真っ赤だぞ」


「うっさい。暑いんだよ」



あんな言葉一つに動揺するなんてらしくないと思いながら、ケーキを頬張る。
トシーニョは絶対天然タラシだ。
無自覚なんて性質が悪い。
だからホストなんだ、と自分に言い聞かせて。
ものすごい勢いでケーキを食べた。


二つ目のケーキを食べ終わったのと同時に、着替えを終えた妙が帰ってきた。
ナイスタイミングだと、銀時は立ち上がり妙の元に駆け寄る。



「あ、ちょ、待てよ」



トシーニョの声は聞こえないふりで、妙に帰ろうと持ちかけた。
妙は不思議そうな顔をしていたが、何かに感づいたような顔をしてにっこり微笑んだ。
それは、銀時を無理やり頷かせたときと同じ種類の笑みだった。


妙はトシーニョの方を向き、彼を手招きした。
そしてトシーニョの手を引くと、耳元で何かを囁く。
途端にトシーニョが真っ赤になった。


彼女たちの声は銀時には届かなくて、首を傾げて話が終わるのを待つ。
どうでもいいから早く帰りたい。
そう思いながら待つこと数分、やっと話が終わったかと思うと、妙ではなくトシーニョがやってきた。



「妙は?」


「もう少し飲んでから帰るんだとよ」


「ふぅん。じゃ、俺帰るわ」



ひらひらと手を振って、店を出ようとすると。



「待てって」



手首を掴まれ動けなくなる。
迷惑です、と全面に押し出してみれば、ふっと顔を逸らされた。



「……送ってく」


「はあ? 最近のホストって送迎まですんの? 大変だねぇ」


「ちげぇよ。行くぞ」



引き止めたかと思えば今度は歩きだして。
どうにもわからない行動に疑問符を浮かべながらも、送ってもらうことには賛成だったので、銀時も大人しく歩きだした。


トシーニョが何も言わないので、銀時も何を話していいかわからず押し黙ってしまう。
しばらく無言のまま歩いた。
その間も、手首は掴まれたままだった。


日付がそろそろ変わるという頃、ネオン街はこんな時間でも賑わっていて、人通りが多かった。
客引きのホストやホステスが表に出て声をかけている。
酔っ払った親父も多くいて、絡まれそうになるたび、トシーニョが巧妙に避けてくれた。
決して後ろを振り向くことはなかったから、彼がどんな顔をしているのか、銀時にはわからなかったけれど。



「あー、俺ん家ここだから。送ってくれてありがと」



そんなことを繰り返しながら、万事屋に辿り着いた。
二階を指し示すが、トシーニョはなかなか手を離してくれない。
顔を顰めて手を振り払おうとすると、掴む手に力が入った。



「おい、何なんだよ!」


「土方十四郎」


「は?」


「俺の名前だ。覚えとけ」



たったそれだけのことを言うと、トシーニョ――土方はあっさりと銀時の手を離し、夜の闇の中に消えていった。
銀時は呆けた表情でその背中を見送った。


それが、二人のはじまりだった。






+end+






+++++



勢いだけで書いてしまったホストパロ……。
説明くさいのは気にしないでくださいィィィィ(泣)
アンケでパロ土銀と見たときふっとこれが浮かんでしまって……。
続きそうだけど続きません(ぇ
アンケート一位、パロ土銀でした!
小話ブログであんなこと書きましたが、土銀大好きですよ!
反応はします。
書く方向に反応しないだけです!
投票くださった方、ありがとうございました!
フリーですのでじゃんじゃんもらっていってくださいませ。


お題は恋したくなるお題様よりお借りしました。






2010.02.20.

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あきゅろす。
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