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泣き虫な君(013 410)
 本当に、あの姿を見たのは偶然だった。

 たまたま飲用水が無くなって、誰かが採りにいかなければならないという状況になった。

 ウォルやフリオニール、クラウドは先ほどの戦闘で疲れおり、子どものルーネスや女の子のティナに重い水汲み任せる訳にはいかない。バッツたちはまだ探索中だったので、消去法的にセシルに決まった。

 空になっている水袋を手に、セシルは湖のある方向へと歩いて行く。ここから数分ほど離れた場所に水をたたえた湖がある。
 そこはティーダが探索で見つけてくれた場所だ。

 ティーダは水場を見つけるのが得意であるが、水を見つけるたびに飛び込んでしまう。最初は叱っていたウォルやフリオニールも今は呆れて何も言わない。
 なによりも、水に入ったティーダがとても嬉しそうに笑うから、誰も止めることができなくなったのだ。

 セシルが湖に行くと予想通り、ティーダがいた。だが、いつもと様子が違う。
 ティーダは膝の高さくらいまでの水深で泳ぐ訳でもなくぼんやりと佇んでおり、湖の向こう側を見ていた。

 その姿が空から降る月の光で照らされていて、とても神秘的に見えた。

「ティーダ?」

 セシルが声をかけるとようやくティーダもセシルの存在に気づいたようでゆっくりとセシルの方を向いた。
 振り向いたティーダの頬には一筋の涙。

「あ…。セシル、ごめん。もうこんな時間ッスか?」

 セシルの存在に気づいたティーダは慌てて目を擦るとセシルに笑顔を向ける。その笑顔はいつもと変わらないようだったが、赤くなったティーダの目を見たセシルにはいつものようには思えない。

 セシルは近くに水袋を置くと湖に入り、ティーダに近づく。ティーダは「服がぬれる」とセシルに注意したが聞く耳を持たず、手を伸ばせば届くところまで近づいた。

 セシルに見つめられたティーダは視線を逸らすが、セシルはじっとティーダを見つめ続ける。
 そして、ティーダの頬に残っていた涙の痕をそっと指で拭うと悲しげな表情で言った。

「いつもこうやって…一人で泣いているのかい?」

 セシルの言葉はティーダにとって図星だったようで何も言わなくなる。

 フリオニールから聞いた話であるが、「ティーダは泣き虫」だとティーダの父、ジェクトは言っていた。
 その言葉はいつも笑顔で皆を励ましてくれている彼には全く当てはまらなくて、本当の事なのかと疑った。
 それに、彼は成長したティーダを見ていないから、昔の事を言い続けているだけだと考えていた。

 だが、今のティーダを見て、ジェクトの言葉に嘘はないと確信した。
 よく思い出してみれば、ティーダは平和郷の生まれで、剣を持ったのはつい最近だと言っていた。
 争いを知らない人間が戦う理由も終わりも何も分からないまま舞台に立たされれば、時に泣きたくなる時もあるだろう。

 ただ、ジェクトが見ていた子どもの頃よりも成長した彼は、子どものように表だって泣く事はせず、こうやって一人、声を殺して泣いていた。

 ティーダの涙をぬぐったセシルは、自分よりも頭一つ低いティーダの体を抱きしめる。
 自分から相手に触れる事はあっても、触れられる事は少なかったティーダは驚いて腕の中でもがくが、意外と強いセシルの力に観念したのか次第に抵抗を止める。でも、身体は慣れないのか固く強張ったままであった。

 セシルはティーダの固く強張った身体をあやしほぐすように背中を撫で、祈るように呟いた。

「お願い。弱みを見せて。僕は大人だから…ティーダの哀しみを受け止めてみせるから」

 セシルの言葉にティーダは身体をはねさせると、セシルの肩に額を置く。すると、また声を殺して泣き始めた。

 足から登る水の冷たさがあったが、ティーダの体温はとても心地いい。

 できるならば、彼が泣きやむまではこのままでいたいとセシルは思い、ティーダの身体を抱きしめた。

泣き虫な君 End お題配布元:猫屋敷

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あきゅろす。
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