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笑顔の君(013 3→10)
 僕は、彼の笑顔しか知らない。

 いつもへらへら笑っていて、自分よりも年上なのに緊張感の欠片もない奴。
 …それが、僕のティーダに対する最初の評価だった。

 あの時は自分が最年少だと自覚していたから、皆の足を引っ張らないように、知識や機転で切り抜ける事ばかり考えて、ティナを守れるのは自分だけだと自惚れて、皆に頼る事をしなかった未熟な自分。

 自分で何とかできる、と思って好奇心に負けて行動して、ティナを守れなかった自分。なんとかティナは奪還できたけど後悔だけは続いていて、自分の気持ちに整理をつけようと一人になったことがあった。

 そんなとき、僕の前に現れたティーダ。その時のティーダはいつものように笑っていなくて、ちょっと真剣な表情をしていた。
 でも、僕はそれに気づかなくて「何しに来たの?邪魔するなら帰って」と冷たく言い放った。
 でも、ティーダはそんな僕の言葉に聞く耳を持たず、そっと僕の隣に座る。ただ、黙って。

 気がついたら、自分のせいでティナを傷つけてしまった事、足を引っ張らないように突っ張っていた事、自分が最年少である事に不安を抱いている事をすべて、ティーダに吐き出してしまっていた。

 その時のティーダは「そうか」と相槌を打ってくれた。適当な相槌じゃなくて、真摯な心の籠った相槌。だから、僕は独り言のようにさらりと言ってしまったのかもしれない。

 僕が全部吐き出した後、ティーダの手が僕の頭を撫でた。僕やみんなとは違う、できたばかりの肉刺がある手。でも、水中でボールを扱っているからなのか、それなりに成長した手で暖かい体温を僕に与えてくれた。

「今が後悔できているなら大丈夫ッス。次は同じ事をしなければいい。
 もし、無理だと思ったら皆を頼るッス! 一人じゃ無理な事でも、皆となら乗り越えられるッス!」

 ティーダのその言葉と輝かんばかりの笑顔に、泣きそうになってしまったのは内緒だ。
 あの時から、ティーダの笑顔はみんなを照らしてくれる太陽の笑顔なんだ、と自覚した。

 それからの僕はティーダのことをよくみるようになった。
 ティーダは良く笑う。そして、必ず誰かと居る。ティーダが一人でいる所なんて見た事が無かった。

 でも、ある日。僕はティーダが一人でいる所を見てしまった。
 その時のティーダはいつもの笑顔じゃなくて、僕は思わず岩陰に隠れてしまった。

 水面に反射した月の光に照らされたティーダは、いつもの彼から考えられないほどに静かに泣いていた。
 その姿は目を奪われるほどに綺麗で、同時に儚く感じた。このまま水に溶けてしまうのではないかと思ってしまうほどに。

 僕はその不安に駆られてティーダに近づこうとしたけど、できなかった。

 今の僕では、ティーダの涙を拭う事は出来ないから。
 この時、今までで一番、子どもである自分がとても嫌になった。

 僕はティーダに背を向けて、コスモスの陣地へと走って行った。
 陣地に着いたら、誰かに手合わせを頼もう。そして、どんどん強くなる。

 いつも笑顔を浮かべて、僕たちを照らしてくれたティーダを守るために。

笑顔の君 End お題配布元:猫屋敷

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