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夢見る君(013 110)
 調和と混沌、コスモスとカオスの戦いが始まり、早数ヶ月…。
 闇の軍勢にイミテーション…。決定的な決め手がないまま、悪戯に時が過ぎていく。

 この間にも世界が破滅に向かっているのかと思うと逸る気持ちもあるが、休息も大切な時間である。
 いくら、強い実力を持っていたとしても、疲労が蓄積していれば勝てる相手にも勝てなくなる。
 それを知っていた秩序の女神・コスモスの率いる光の戦士たちは定期的に休息を取る事を義務付けていた。

 今回、休息を取っていたのは光の戦士たちのなかでもリーダー格とされているウォル。
 秩序の女神に忠誠を誓い、誰よりも調和の勝利を願っている彼が休息を取っている理由。それは先日の戦いで急襲に遭い、不覚ながらもイミテーションの攻撃を受けてしまったからである。

 イミテーションは消滅を与える“死に神”…。ウォル本人は「かすり傷だ」と言っていたが、万が一との事もある。そのため、彼は秩序の全員によってテントに押し込まれ、一日安静を言い渡されたのである。

 ウォルは長く溜息を吐き、野外で休息を取るための天幕を見つめる。
 怪我はたいしたことはないと思っていたが、イミテーションの刃は簡単に鎧を貫き、わき腹に血が滲む傷を残している。幸いにもポーションがあってよかったが、もし無理をし続けていれば倒れていたかもしれない。

 倒れる事は秩序全員に迷惑をかける事になる。そう思えば今休んでいるという状況も少し慰められた。

「ウォル? まだ、起きてる?」

 天幕の外から自分を呼んだ声が聞こえる。ウォルはその声の持ち主に気づき、彼が天幕に入ることを許可する。
 声の主は少々恥ずかしそうに照れながら、ウォルの天幕に入る。声の主は秩序の太陽…ティーダであった。

「どうした、ティーダ。君の天幕はフリオニールとの筈だが…」
「へへ、そうだけど…。今日は特別に、ウォルに添い寝してあげるっス!」

 さも名案であるかの如くティーダは胸を張って言うと、ウォルの返事を聞くことなく布団の中へと潜り込む。
 ウォルは戸惑いながらのそれを表情に出すことなく、自分の天幕に戻るようにと諭そうとした。だが、ティーダの表情を見て、その言葉を飲み込む。

「…だって、淋しいスよ。怪我した時の一人寝って…」

 そんな言葉を心細げに言うのだからたまらない。ティーダの過去を知っているならばなおさらだ。
 ウォルは根負けしたように添い寝の許可を出すとティーダはまた、太陽のような笑顔をウォルに向けてくれた。

 …しばらくして、寝息が聞こえてくる。ティーダは寝つきがいいのか、明かりを消すとすぐに寝入ってしまった。ウォルの方はと言うと…まだ少しだけ眠れないでいた。

「(やはり、まだ子どもだな…。一人寝が淋しいというなんて)」

 自分はもう成人を迎えた大人なのだから、淋しいと思う感情は幾らでも押し殺す事ができる。
 だが、平和郷に育ったティーダは年相応…いや、彼自身が独りになった時間が長いため、誰かと共に居ようとする。

 まるで、相手の心の中に在る、隠された“淋しい”という感情を感じ取るかのように。

 猫のように丸くなり、ウォルの胸元にすり寄るように眠るティーダの髪をウォルは優しく絡める。ティーダの金髪は染めている筈なのに不思議と傷みは無く、さらさらとした感触をウォルの指に与えてくる。
 その感触に思わずウォルは、いつもの彼からは考えられない…柔らかい微笑みを浮かべた。

「願わくば、この子に良い夢を…」

 目が覚めたら、また戦いの日々だから。せめて、眠っている間は安らかな眠りを。

 ウォルはそのことを願いながらティーダの額にキスをすると、自分自身も瞼が重くなり、そのまま眠った。

 ウォルの銀とティーダの金。それが一つのシーツの上に散らばり、美しい色彩を描いていた。

 …そして、翌朝。ティーダと一緒に寝ている所を保護者ズに見つけられ、怪我人であるにも関わらずウォルが叩き起こされたのはまた別のお話。

夢見る君 End お題配布元:猫屋敷

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