Helter Skelter(彼女の狼狽)…2



我が目を疑う,とは正にこのことか。

委員長がこんな風に見えることがあるなんて,想像だにしなかった。
仮に疲労困憊していたとしても,限界まで平然として見えて,突然倒れるタイプだと思っていたのに。


真逆。

いや,思い上がりだろうか。

殴りかかられるのを覚悟で,頭に浮かんだ可能性を問う。


「……心配……してくれてるの?」

「君,馬鹿じゃないの?」

「……」


(やっぱり違ったか)


憮然とする私に,委員長はなおも続ける。


「君が……そんな殊勝なのは,気持ち悪い。いつものようにしてればいい」


ばっさり切り捨てた割には意外にも優しく響くその言葉に,彼の真意を測りかねる。


「煽るね」

「止めて欲しいの?」

「普通なら止めるかなと思って。
 “やっと気づいたか,兄弟を好きなんておかしい,憧れを恋と勘違いしてるだけ”なんて言ってさ。
 ……そうしないのは,同情?君の計画にとって便利だから?」


“それとも,単に興味がないから?”


その言葉を寸前で飲み込んだのは。
委員長との絆を信じているから,ではない。
そんな麗しいものではなく――――ただ,怖かったからだ。


もしその言葉にうなずかれてしまったら。突き放されたら。
そう思うと,馬鹿みたいに,怖くて怖くて仕方なかった。


私にとって,兄は単なる仲の良い兄弟というだけではない。
不在がちな父に代わる親であり,転校続きの私にとって無二の親友であり,そして恋人でもあった。

その全てが,同時に奪われようとしている今,これ以上拒絶されたら――――


(……そうだ。傍に居てくれるなら,多分誰でも良かったんだ)


委員長は。溺れる私の,只の藁だった。
自分と同じ傷を持つ仲間を持って,一人じゃないと安心するためのただの道具。

私はいつだって自分のためにしか動いていない。一度も彼を真正面から見ようとしてない。
だからどれだけ共に時間を過ごしても,協力しあう仲間だと言ってみても,
こんな時に私を突き放したりしないと信じきることすらできない。


これまで築いてきたものが,あまりにも身勝手な関係だったことに気づいて。
呆然とする私に,沈黙が重くのしかかった。

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