Mission:Impossible(彼の共謀)…2


「やっぱり,私たちの評価を下げずに,積極的に動くのは難しいか……」

「とりあえずの間,二人の進展を妨害し続けるしかないということかな」

「心理学的には,恋愛感情にも期限があるんだっけ.それまで邪魔し続けていれば,そのうち冷める……はず,なんだけど」

「そう願うね,心から」


結局はいつもと同じ結論.
嗚呼,今日も非生産的な会議だ.
それでも,僕ひとりが実力行使にも出られずむかむかとした思いを抱いているわけではないという事実に,すこしだけ慰めを感じる.
群れるのは嫌いだが,この女との奇妙な連帯感は,どうしてだか不愉快ではない.


ふと外に目を向けると,もうほとんど日が落ちてしまっていた.
日中は温かくてもまだ夜になると肌寒く,開けていた窓から冷気が入ってきている.

すると,名前がくしゅん,とくしゃみをした.
彼女でも寒さを感じるのか,と妙な感想を抱く.体温も低いようだし,どんなに表情を崩してもどこか人間臭さの薄いその容貌は,あまり寒いとか熱いとか感じることがなさそうに見えるからだ.
ともあれ,風邪でもひいて僕にうつされたりしてはたまらない.
僕は肩にかけていた学ランをばさ,と投げて渡す.


「なに?」

「寒いんでしょ.ソレ使っていいよ」


投げられた制服を持ったまま,零れ落ちそうな目をぱちくりとさせる名前.
いつだったか,紅茶の味を褒めたときもこんな顔をしていたっけ.
まったくこの女は僕を鬼かなにかだと思っているのだろうか,とすこしむっとして見ると,彼女はふ,と表情をゆるめた.


「ありがとう,委員長」


そう言ってにっこりと邪気なく笑う.
今度は僕が目を見開く番だった.生意気なばかりの女だと思っていたが,こんな顔もできるのか.

いつもそういう顔をしていればいいのに,そう小さく呟くと,「え,なにか言った?」と聞き返してくる.
別に,と僕が言い返しかけたとき,彼女の携帯が突然鳴り出した.
その場で電話に出て応対する名前の顔色が途中で変わる.どうやらいい知らせではなさそうだ.

ピ,と通話を切った名前は,すっかり厳しい顔に戻っていた.


「仕事ができたよ,委員長」

「今回の件がらみ?」

「そう,兄さんから.今日は帰りがけに長篠と会って,少し散歩していくから遅くなるってさ」

「急だね……部下たちはもう帰ってるから,僕らが直接行くしかないな.現在地は把握してるの」

「もちろん.行こう」


そうして僕らは,夕闇の並盛に,並んで繰り出していった.






*タイトルは、トム・クルーズ主演の映画から。

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あきゅろす。
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