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忘れがちな大切なこと


長年食べてきた物の変化に敏感になるのは当たり前だろう。
今日は美味しい方だとか、今日は焼きすぎだとか、今日は悲惨だとか。
少しかじっただけで分かる。
いつ行っても其れはあって、昔から食べてたんだから。




「やぁ、アーサー!ヒーローな俺が暇な君に会いに来たぞ!」

ばーんっと力強くアーサーの家の扉を開けると、家の奥から呆れたように溜め息を零しながらアーサーが出てきた。

「またお前はアポ無しで来やがって…」
「HAHAHA!今更じゃないか!」

悪態つくアーサーの言葉を聞き流しながら家の中に入った。
そのまま勝手に客室に向かいソファーに座る。
それもまた今更なのでアーサーは何も言わずに、紅茶とお菓子を持って部屋に入ってきた。

「遅いぞ、アーサー」
「お前に紅茶淹れてやってたんだろ、ばかぁ!」
「、あれ?」
「ん、何だよ?」

少しの違和感を感じ首を傾げるとアーサーも不思議そうに首を傾げた。

「今日はスコーンじゃないのかぃ?」
「あぁ、最近忙しくて焼いてなかったんだよ。お前が来るって知ってたら焼いてやったけど」
「で、何でケーキなのさ。時間なかったのに新メニューに挑戦?」
「ちげぇよ、これはフランシスとこのケーキだ。癪だけど味は確かだ」

アーサーは皮肉気に笑うけど、俺はちっとも笑えない。
苛々する、ぞ。

「……何でフランシスとこのケーキがあるんだぃ?」
「お前さっきから質問ばっかりだな。昨日家で飲んだとき、あいつが持って来たんだよ」
「…昨日もフランシスと飲んだのかぃ?」
「そうだけど…、アル?どうしたんだよ?」
「………………」

苛々する。
アーサーと仲がいいフランシスにも。
鈍感なアーサーにも。
遠くに住む自分にも。

「く、食おうぜ?本当に美味いから。なっ?」

アーサーは俺の横に座ると苺のショートケーキを自分と俺の前に置いた。
ぎこちない笑顔を浮かべながら必死に俺を笑わせようとしてるのが分かった。
アーサーは俺が怒るのを極端に怖がる。
きっと今だって、急に黙ってしまったから怒ったのだと思ったんだろう。
…あながち間違ってないけど。

フォークを手にとって生クリームでコーティングされたケーキに手を伸ばした。
うん、苺の赤が凄く綺麗だ。
俺がケーキに手を伸ばしたことに安堵の表情を浮かべたアーサーをチラリと見てから、ケーキを口に運んぶ。

「なっ?美味いだ、ろ…?」

おずおずとアーサーは同意を求めてきた。
口に入れた瞬間に広がる程よい甘味と苺の酸味がちょうど良く、これが不味いと言うならアーサーのスコーンは何て言えばいいんだろう。
…それでも。

「、不味いよ」
「え、…んむっ!」

無理矢理キスを仕掛けると、アーサーは驚いたのか目を見開いた。
そんなアーサーの唇を開かせて、口内に残っていたケーキのクリームをアーサーに移した。
最後に小さなリップ音をたてて唇を離した。
アーサーの顔を見るとトマトのように真っ赤になりながらボーっとしていた、あぁもう可愛いな。

「な、なんで、おま、突然っ!」

ハッと我に帰るとポカポカと殴ってきた。
HAHAHA、全然痛くないんだぞ!

「だって美味しくないぞ」
「え、嘘だ、美味いぞ、これ?」
「君のスコーンのほうがマシだよ」
「…!……いつもは不味いって言う癖に」
「まぁね」
「、なんなんだよ、お前はっ!」

ぎゅーっと抱きしめると、腕の中で「ばかぁ」って声が聞こえた。

「ねぇアーサー。スコーン焼いてよ」
「…不味いって言うから嫌だ」
「このケーキより美味しいよ」
「、え」
「もう俺お腹ペコペコなんだ、早く焼いくれよ」
「…しょうがねーなぁ。ったく、メタボの癖に」
「煩いよ君」

悪態付くアーサーが愛しくてぎゅうぎゅうと腕に力を強めると、ゆっくりとアーサーが俺に腕を回してきた。
あぁもう本当に君は可愛いね!





(香ばしすぎる君のお菓子が恋しくなるなんて、)







end!
ケーキが不味いわけじゃなくて、フランシスのとこってことが気に入らないアル。もちろんスコーンよりケーキのほうが美味しいです^^



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