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お前が見ているものは私だったものの亡骸です残骸です。もうそこに私はいないのです。


※ルートが少し病んでます注意!








「兄さん兄さん」




部屋の中にひとりの男が居た。
彼がこの部屋の主で、彼以外この部屋に入れる人間はいない。
否、訂正。
昔はいた、今はいない。
今この部屋に入ろうならば自らの血を見ることを覚悟しなければならないだろう。



「兄さん兄さん」



彼は呼び続けていた。
只ひとりの存在を。
彼にとって莫大で重大で必須で完全なる存在を。
今はいない存在を。



「兄さん兄さん」



いつもは銃を握る堅い手に写真と、兄とお揃いのアクセサリーを掴みながら呼び続けていた。
写真を見つめる表情は、普段の彼を知っている者が見れば目を疑うように穏やか。
それは愛おしいものを愛でる目だった。



「兄さん、今日またフェリシアーノが逃亡したんだ。え、ああ、大丈夫、平気だ」



兄さんは心配症だなぁ、俺はもう子どもではないよ。
と彼は写真に笑いかけた。
彼には聞こえるのだろうか、写真が紡ぐ声が。
それとも彼の妄想が生み出した幻聴なのだろうか。
どちらにせよ、これは正常の精神状態だ、なんてお世辞にも言えやしない。



「兄さん兄さん」



彼は本当は分かっているのだ。
呼びかけても返答なんてないことを。
話しかけても返答なんてないことを。
きっと俺の声だって聞こえてるだろう。


理解したくない現実。
寵愛していたい幻想。
直視したくない現在。
泥酔していたい空想。



「兄さん兄さん」



彼は現実から耳を塞ぎ目を伏せていたいのだ。
幻想の中へ逃げようと足掻く。
だから俺を呼ぶんだろう?



「兄さん兄さん」



呼ぶのを止めてくれ。
俺はもうお前の呼びかけに応じてやることなんて出来ないんだから。
なぁ、本当は聞こえてるんだろう?




  
「俺はもういないんだよ、ルート」









(兄さん兄さん




、早く帰ってきて)








それでも彼は俺を呼び続けた。
部屋は今も彼ひとり。






end!
写真の中のギルに縋るルート。ルートが唯一逃げれる場所はギルだったらいいな。


title→ 彗星03号は落下した


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