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表裏





「やめた」


「ん?」


「こんなの完成出来る訳ない」



手に持っていたパズルを床に投げ付けた。
そして調教師が持ってきた朝食のサンドイッチを食べ始める。
一連の動きを見ていた調教師は俺が投げ付けたパズルを拾って、まだまだ残っているパズルのピースの山へと元に戻した。



「俺が入ってきた時から熱心にしてると思ったら、よく見ると全然進んでねぇな」



調教師はパズルをはめる額縁の中を見ると、苦笑した。
2000ピースなんて素人じゃ完成させるなんて無理だ。
それでも支給してヒトにさせるのは、ヒトの中でも頭が優れたヒトを見つけ、監視するため。
zoological gardenは頭が優れているヒトこそ危険視している。



頭の悪いヒトは、扱いが簡単だ。



「お前は粘った方だ」


「何が」


「ほとんどのヒトは早い段階でパズルを諦めて、次の支給品にいってる」



それを聞いて俺もパズルは諦めようかな、と悩んでいると俺と人一人分の隙間を空けて調教師が隣に座ってきた。



「でもな、パズルってのは1ピース1ピースに意味があるんだぞ。パズルは集大成で初めて作品となる。人間もそりゃ一人じゃちっぽけでとんがった欠片だけどな、そんな自分を受け入れてくれて、お前しかいないっていう"居場所"をくれる。そんな居場所が自分にとっての生きる意味で世界なんじゃねぇのか?
だから人間は毎日毎日自分の居場所を求めて探して迷ってる。そこだけが俺達の生きる世界なんだから、な?」



調教師はパズルのピースの山からパズルを一つ取ると、その一つを俺がどうしても見つからず悪戦苦闘していた場所へとはめた。
俺は驚きを隠せなかった。
その場所のピースはもう諦めていたから。



「…なんで」


「分かったかって?」



調教師を見ながら、顔をコクンと頷かせる。
すると調教師は何ともないというように言った。



「勘」



こいつの感性はある意味、人間離れしているのかもしれない。



「それより昨日の」


「安心しろ。俺の仕事は昨日のうちに無事終わらした」


「誰があんたの仕事の心配した。表と裏」



あれからずっと考えてはみたが、やっぱり女がいなくなるという事実、表と裏という言葉。
理解が出来なかった。



「俺も裏の担当は断ってきたから、実際はよく知らねぇ」


「裏の担当?」


「ああ、分かりやすく説明すると」



そう言いながら調教師はポケットから硬貨を取り出した。
その硬貨を俺の目線に合わし、言葉を続けた。



「これはどっちだ?」


「なにが?」


「表と裏」



表と裏。
硬貨を見ると、俺からは、



「表」


「そうだ、これは表。この硬貨はzoological gardenの入場料と同じ1コイン。そして表の顔」



その硬貨を今度は親指に乗せると、強く弾いた。
硬貨はキンという音と共に回転しながら宙に浮き、俺の目の前に落ちた。



「…裏」


「表があれば裏がある。このコインが表の顔出せば、次は裏の顔があるってことだ」



俺は自分が想像した仮定に疑心も含め、眉を顰めながら調教師を見た。





「正解。zoological gardenには2つの顔がある。そしてお前が自分の世界だと思っているこのzoological gardenは」









「表だ」










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あきゅろす。
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