白熊X
初めて会ったその日から、たった一人のキャプテン。
今でもそれは変わらない。
隣に座っているキャプテンの肩に頭を乗せる。
キャプテンは何も言わないが、本当は重さや暑さに耐えているはず。
優しい、おれだけのキャプテン。
「ベポ」
話しかけられて、ん?と頭を起こしキャプテンの顔を見ると、真剣な顔をしてこっちを見つめていた。
怒っている。
「まだ続けてたのか?」
その言葉は内容を言わずともすぐに意味が理解できるものだった。
おれが今ここにいる現況。
それはただ死にたいとかそういう感情からじゃない。
おれはただ―…
「キャプテン生きてるってどういう事か分かる?」
その質問にキャプテンは眉を寄せた。
少し何かを考えると、本を読んでいるかのように淡々と喋りだした。
「呼吸をして、心臓を動かし、肉体に血を廻らせ、正常に細胞の組織を働かせ、本能で身体を動かす、それが生きること」
「違うよ」
「…じゃあ生きるって?」
「生きるって、自分が好きな時に物を食べて、寝て、起きて、いろんな事を感じて、その感じた事がまた明日へと繋がって、自分が常に優先される事、それが生きるという事」
おれのその言葉にキャプテンは疑問を感じている顔つきだった。
そんなキャプテンを見て、おれはキャプテンに言った。
「おれは今、死んでる。zoological gardenの中でおれは生きたことなんて無い。おれが生きれるのは外の世界だけなんだ」
「…外の世界」
「ただ生かされてるだけの生活なんて、死んでるのと一緒だ」
「だから今でも脱走を諦めて無いのか」
もちろん、と笑った。
おれはここにいれられてから、何回も脱走を試みている。
その度に調教にまわされて、直立歩行出来る"化け物"扱いをいい事に、人間用の洋服を着せられて調教の傷を上手く隠されている。
しかし、そのおれをモチーフにしたグッツが大ヒットしておれの身体の傷の数とzoological gardenの売れ行きが平行している事実。
「キャプテンは興味無いの?外の世界!」
「俺は…俺の世界はzoological gardenしかないんだ。俺はここでしか生きていけない」
でも、と前置きを置くと笑みを浮べておれに言った。
「話だけなら、俺も外の世界を知りたい」
本当ッ!?と気分が上がると、あのね、あのね、と過去の記憶を探りながら、外の世界について話した。
「外の世界はね、綺麗な深い蒼色の海が広がってて、雲みたいな真っ白な氷が海に浮かんでて、空もいろんな色を持ってて、世界中の大気が身体に流れ込んできて、おれを世界の一部へと溶け込ませるんだ。おれは生きたい」
「…そうか」
その時、部屋の扉が開いた。
チラリと見ると調教師が入口に身体を預けて、こっちを見ていた。
そして俺とベポの顔を同時に伺うと、チッと舌打ちした。
「…効果…無し、か」
近付いてきて、ベポと俺の錠を外すと、今から自室に戻すぞと一言だけいうと、歩きだした。
けれど俺の錠を外した時、ベポに聞こえないようにそっと俺に耳打ちをした。
「…死んでるか、ならお前はここにいる限り、存在すらしてないという事になるな。…お前は、…今まで生きたことすらねぇ」
生きる?
外の世界に生きる意味があるのだとすれば、なら俺は生きる意味などいらない。
生きる意味なんて、
何故だろう?
とっくの昔に棄てた
そんな感じがするんだ
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