MARIA
4
「……凄ェ可愛い、葵。このままここで食いたい」
無茶なことを言いながら、頬から首筋にその柔らかな唇が滑り落ち、ソコに熱い吐息が掛かる。
――――と、その瞬間。
凌の動きが制止した。
……ような、気がした。
しかし、俺はさして気に留めずに唇の感触が擽ったくて身体を捩った。
「馬鹿言うな」
「何処ならいい?マジ、我慢出来ねェ」
「家に着くまで我慢しろよ」
「我慢したらさせてくれんの?」
言うが早いか首筋にチリッと僅かな痛みが走り、同時に俺は眉間に皺を寄せた。
ソコから顔を上げた凌の不敵な笑みに、益々顔色を顰め、フイ、と目線をズラす。
「その時の気分による……」
俺は凌の拘束から無理矢理逃げ出すと、無視して歩き出した。
「待てよ、葵!」
いつもより少し声を張り上げながら、先程とは反対に凌が俺の後を着いてきた。
バイクに乗って、十五分弱。
「ただいまー」
玄関を開けてから、誰もいない室内に何となく言ってみた。
「今更何言ってんだか」
後ろにいた凌が、くしゃっと俺の髪を撫でた。
「一応言っとこうと思って」
「俺もいねェのに……?」
「だから、一応」
俺がそう言うと、ククッと笑いを抑える凌の声が聞こえてきた。
俺は凌を無視して、さっさと二階へと続く階段を上がった。
――――俺が本当に好きなのは……誰?
幾ら思考を貼り巡らせても、答えは出ない。俺は自分で自分の気持ちが分からなくなっている……。
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