MARIA
5
――――高校進学の決まった中学三年の、春の出来事。
生まれて初めて、本気で好きになった人を失った瞬間。
瞬は重い心臓病だったらしい。時折、俺の前でも大量の薬を飲んでいたけど最後までそれが何の薬かは本人の口からは教えてもらえなかった。
瞬がいなくなって少ししてから、瞬の母親に彼の病気がどんなものかを聞かされた。
瞬がここまで生きられたのは、本当は奇跡だったと言われた。
幼い頃から、中学校に上がるまで生きられるかどうか分からないと医者に宣告された瞬が、ここまで成長した姿を見られて良かったと……泣いた。
―――俺は―――涙は、出なかった。
だって……泣いたら、瞬がいない現実を、完全に認めてしまうことになる気がしたから。
……どうしていいか、分からなかった。
瞬を忘れるには、日が浅すぎた。
思い出にするには、一緒に過ごした時間があまりにも濃厚すぎた。
俺は今、この瞬間まで、何事でも冷静に見つめて受け入れられる強い精神力があると信じていた。
……でも、その自信は簡単に崩れ去った。
俺は何日も、眠れない日々を過ごした。
「一緒の高校に入ろうね」
と言って、受験した昂形高校。俺にとって昂形は、どうでも良かった。……瞬と一緒にいたかったから、受験しただけ。
だから昂形に夢も希望ももっていない俺が、瞬の一番行きたがっていた高校の門を潜るということは、気持ち的にかなり辛いものがあった。
それでも、俺が今、ここにいられるのは瞬の両親が言ってくれた一言がきっかけになっている。
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