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MARIA
8

「何の用だよっ」

教室から少し離れた場所にある用具室に俺は凌を引っ張って入って行った。


用具室は掃除道具や普段あまり使わないものが置かれてある……まぁ、言わばちょっと広めの物置みたいな場所だ。


「何の用って……何でそんな怒ってんの?」

「俺達が兄弟って言うのは内緒だって、お前がここに入学する前に何回も言ってあっただろ!学校で俺に声掛けるなって!」

「……ソレ、葵が勝手に決めただけじゃん。俺はそんなのにノる気ないし、今日一日静かにしてただけ有難いと思えば?」

「俺達が兄弟だって分かったら色々大変だろ!」

「何が大変?――――彼氏に勘違いされるとか、思ってる訳?」


――――は?


何かコイツ今、物凄いこと言わなかったか?

「……カレシって、誰?」

「さっき、一緒にいた奴。昼間も葵、ソイツと凄ェ楽しそうに笑ってた。……同じ家に住んでても、ここ数年、俺にはまともに笑ってくれない癖に」

「つーか彼氏って……どういう思考回路してるんだ、お前は。敬史はただの友達。仲いいってことは普通、友達って言うだろ」

「そんなの、葵が気付いてねェだけじゃん」

「お前、俺の友達ホモにするなよ!」

「葵は鈍感すぎんだよ!俺以外の奴にばっか愛想振り撒いて、尻尾振って、懐いて。兄貴なら兄貴らしく広い心で弟を受け入れる位してみれば?!」

「俺のどこが愛想振り撒いてんだよ!お前のことだってちゃんと受け入れてやってるだろ!」

「どこが?俺から……逃げてばっかの癖に」

瞬間的に、凌の顔色が曇った。

「凌……?」

凌が物凄く悲しそうな顔をした。……それは多分、他人が見ても絶対に分からない位の、ほんの一瞬の出来事だったけど。


物心ついてお互い大きくなって成長してからは滅多に自分の感情を表に出さない凌の、それは本当に意外な光景だった。


……そして今日みたいに、こんな風に怒鳴る凌を、俺はかなり久しぶりに見た気がした。

「――――…帰る」

そう言って、俺の横を通り過ぎて凌が用具室を出て行く。


結局何の用で俺は今、呼び出されたのか分からないまま、時間だけが過ぎていった。

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あきゅろす。
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