MARIA 4 「お前はきっと、助かる」 「……うん」 「きっと治る」 何の根拠もなく、軽々しく言っていい言葉じゃない。それも、病気の辛さも何も分からない、健康体な俺が。そんなことは百も承知だったけど、励まさずにはいられなかった。 もしかしたら……と思いたかった。1%もない奇跡に、縋り付きたかった。 「敬史……キス、してくれる?」 「いいよ……」 起き上がれない相手に向かって腰を屈めたまま、俺はその柔らかい唇にソッと口付けた。 「ありがとう……敬史…」 アイツが俺に向かってもう一度優しく微笑んでくれた。 ―――そしてそのまま、動かなくなった。 「……瞬(シュン)…?」 それが瞬の最後の言葉になった。それはまるで、ただ眠っているだけのようにも見える……。穏やかで、安らかな寝顔。 「おやすみ……瞬…」 再度、俺は瞬の唇にキスを落として病室から出た。 その直後に、遠くで泣き叫ぶ母親の声を聞いた気がした……。 [*BACK][NEXT#] [戻る] |