MARIA 9 「三笠と一緒にいる奴、誰?」 俺は教室に入ろうとした女子生徒の肩を掴んで、唐突に尋ねた。 「あっ、あの、……吉野君。吉野敬史君」 彼女はいきなり俺に話し掛けられてびっくりしたみたいだけど、質問には答えてくれた。 ――――吉野敬史、ね。 「アリガト」 お礼を言って、むしゃくしゃした気持ちのまま俺はさっさとその場を後にした。 葵のクラスから場所を移動して、俺は千夏のクラスへ足を運んでいた。 「千夏」 俺の声に気付いた千夏が、友達と話してた輪から抜け出し、近付いてきた。 「凌がここまで来るの珍しいじゃん!」 「お前がこっち来ると、視線痛ェから」 「……室内どころか、廊下を歩く通行人にまで見られるお前に言われたくはないよ」 「ま、そんなのはどうでもいい。――――お前、吉野敬史って、知ってる?」 「いいのかよ。っつか、又いきなりだな?吉野先輩?知ってるも何も、超有名人じゃん」 やっぱり、と思った。 「どんな奴……?」 「それってさ、俺に聞くより葵ちゃんに聞いた方が早いんじゃないの?」 「どうして?」 「だって、葵ちゃんと相当仲いいって噂。あの二人、並んで歩いてるとただの目の保養になる美男美女カップルだし」 俺と同じ感想を述べる千夏。 「何で入学したばっかのお前が知ってんの」 ――――俺は知らなかったのに。 [*BACK][NEXT#] [戻る] |