MARIA
10
久しぶりに会う凌は一週間前と変わらずに目を引く存在だった。
佇む姿は凛として、周りにいるはずのカップルや親子連れ、女子校生なんかもあっという間に俺の視界から消え去った。
遠目からでも久々にその姿を見たら、俺の中でも感情が揺さぶられる程に強い『何か』が湧き上がってくるのを自覚した。
だから――――俺が無視して凌を避け続けても。俺を想ってくれる敬史の優しさに付け込み甘えて、凌のことを忘れたふりをしてみても……それがどれだけ無意味なことか、思い知らされた気がした。
俺は自分の手を広げて見た。
今、仮にこの場所で剃刀でも持ち出して手首を切ったなら、どす黒い紅い血が流れ落ちるだろう。
………凌と同じ紅い血だ。
――――凌――――。
今回、凌と離れてみて、今、会ってみて……全部じゃなくても少しだけ分かったことがある。
俺は、俺一人だけじゃなくて……やっぱり、凌と一緒に救われたい。
確かに、最初は逃げられるかもしれない。だけど今日みたいに少しでも凌の姿を見てしまったら……俺の感情はきっと、逃げる前まで逆戻りしてしまう。
凌がいない時に自分で決意した全ての事柄は、まるで俺の足掻きを無駄だと嘲笑うみたいに、凌が現れた瞬間……泡になって消えてしまうから。
[*BACK][NEXT#]
[戻る]
無料HPエムペ!