MARIA
13
「じゃ、誰?」
真剣な敬史の瞳。
だから俺はそれ以上、嘘をつくことに罪悪感を覚えて押し黙ってしまった。
「嘘、つかなくていい。……見てたら分かるから。葵、知ってる?凌クン、ずっと葵のこと見てたよ。俺は、葵が凌クンの気持ちに気付いたらきっと抜け出せなくなる気もしてた」
敬史の言葉は痛いくらい俺の胸に響いた。
だって……事実だったから。
「どうしたらいいか、分からない……。だって、凌を傷付けたくない……壊したくないんだ」
「葵は?葵の気持ちは壊れてない?」
「分かんない……。こんなこと、駄目だって分かってる。誰も救われないのも、分かってる」
自分がこの状況から抜け出したいのか、俺は嫌々受け入れているのか、そもそも凌が好きなのかさえ……分からない。
キスは嫌じゃないけど、セックスはまだやっぱり戸惑う。実の弟と身体を繋げる禁断の行為は、俺を背徳感で埋め尽くす。
――――それでも。
「凌と一緒にいる時は、落ち着くんだ……」
「葵は……混乱してるだけだ。凌クンとはずっと一緒にいるから、情も安心感も湧き易い。そもそも兄弟なんだからあって当たり前。だけど少し離れた方がいいと思う」
「離れたら……変われると思う…?」
「変われる。――――きっと」
俺も凌も、元の兄弟に戻れるだろうか。
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