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走りつづける(雲骸




僕らは今逃げている

それは畏れて畏れて仕方のないものから逃れるため


そう、僕らの原点であるボンゴレから






最初に歯車が狂い始めたのは一年前だった


嵐の守護者が、いなくなった


そう、獄寺隼人はいない

あんなにボンゴレを慕いついてまわっていた彼はいない


呆気ないものだった


実につまらない



ボンゴレを狙う凶弾に倒れた

一瞬、本当に一瞬

そして二度と彼の煙にまかれた銀髪はみなくなった




ボンゴレは自分を責めた

今でも眠れない日々が続いているのだろう
彼は常に睡眠薬に安定剤を持ち歩いていた

アルコバレーノは何も言わない


ただ、彼ほど命の重さも儚さも脆さも知っているものはいないから、だからこそボンゴレには何も言わない

これは彼自身の部下の彼の問題だから



そしてその事件によりぽっかりと空いた穴が今確実に広がっている


少しずつ、本当に僅かだけれど確実に蝕んでいる




そして、僕らは逃走した愛しい恭弥くん、あなたと








僕は走った
骸を連れて


何処までも先の見えない道を走った

本来規律に厳しいマフィアの世界

逃亡なんてもってのほか

多分、もう戻れない


壊れてしまったのだ
僕たちが築き上げたボンゴレの絆は


埋まることのないものが僕たちの気持ちに巣くう


嫌だ、と


君を失いたくない、と


突然僕は思い立った

あんな簡単に
目の前で
それは消えた



怖くて畏れて骸を失いたくなくて


「逃げよう」

骸の手をひいて走りつづける

止まらない、止まってはいけない

後ろで骸は泣いていた







痛いのです


恭弥くんが掴む腕が
あなたを失う怖さが
消えてしまう瞬間が




それは止まることができない痛み
止まったら終わる
僕らの全てがなくなる


もう二度と止まれない




この歩みが止まる時、僕は




嗚呼、愛しています







突然の光に目を細める

大量の光、そして見慣れた炎



「綱吉…」


僕たちはもう、抵抗などする気は毛頭なかった


黙ったまま綱吉に微笑む

殺して、くれと


なのに

「恭弥くんは関係ない!全ては僕の一存です!捕らえるなら、殺すのなら僕だけを」

そう骸が放った



「骸!違うよ綱吉、僕が…」


瞬間骸がナイフのようなものを綱吉に投げつけた

そして、赤が舞う


ナイフはからりと地を滑った



「骸…」


泣きはらした目と散る赤が目の裏にこびりついた


まるで図ったように倒れる拍子に骸は僕を崖から突き落とす


最後にみた骸の唇は





あ い し て い ま す





そう確かに、紡いだ





このまま死ねるのなら、と



でも死ななかった


僕は生きた



綱吉はもう僕を追っては来なかった
そして二度とマフィアに関わることもなくなった



あのあと、骸と別れた崖に行ったが血の痕すら残ってはいなかった

何度も何度もあの崖を訪れるが、まるであの日が幻のように感じてならない


骸はもしかして生きているかもしれない
ボンゴレの下で働いているのかもしれない


それは可能性でもあった



だがもうなすすべなどないこともわかっていた


綱吉は好意で僕を生かしてくれた
骸が望んだから、だから僕は今こうして生きている



綱吉にはもう会うことは許されない



僕が縋ることができるのは最後の骸の言葉と、鮮やかに残る決別の瞬間



そうして春は過ぎ冬が過ぎ、一年一年僕は生き続けた


あの日、僕たちが畏れたものの正体は果たして何だったのか

過ぎゆく季節にまかせて考え続けた


何時の間にか何十年も経ち、そしてまたあの骸と別れた日がやってきた


崖の上で随分と年老いた自分の姿に呆れながらもまだ断ち切れない想いがぐるりぐるりとまわっている



明けた空



ふ、と長年自身に問いかけていた答えが見付かったような気がした



僕たちが畏れていたもの


それは、生きることだったのだ、と




かさり、
草陰から出てきた懐かしい声色


「そこにいるのは誰、ですか…?」



忘れもしない見事な赤と青








嗚呼、愛しているよ!










E N D


6月9日むくろはぴば!





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