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ずっとずっと愛してる(雲骸



愛しいあなたと過ごす毎日は僕の何にも代え難い思い出になっていく


もう少しで2人で幾度か迎えたあなたの誕生日

今年も変わらぬ愛を誓い、そしてその愛を交わして、一つ増えた年のぶんだけまた僕たちの思い出が重なっていく


そんなはずだった


「恭弥くん、お皿はここに出しておきますね」

夕飯の支度にとりかかり、並べる皿をテーブルに置く

「ねえ、一枚足りない」
「足りなかったですか。じゃあ先に並べといて下さい。とっておきます」

今日は前々から予約していたワインが届く日
赤く艶やかなワインを2人で乾杯するのを楽しみにしていた


キッチンの棚へ移動し大きなクラシック風の皿を取り出す

そして彼のもとへ戻ろうとしたとき




ガッシャーン!




「恭弥くん!?」


皿をとっさに置き、急ぎ彼のもとに向かう

広がるガラスの破片の中で愛しいあなたは



ぽたり、
大理石の床に赤い滴が落ちる

「恭弥くん!どこを切ったんですか!?見せてくださ…」


真っ赤な鮮血はどす黒い血に変わり、それは裂傷により流れる血ではないと自覚した



「ぐっ、…う…」


たっぷり10秒間は赤々と艶めかしく光る血を吐いた

鮮やかな色にまみれ、彼は此方を向く

くす、と悲しげに笑い、

「これがワインだったら…良かったのに」


そう呟いた



床に転がったコルクのついたワインが同じように艶めかしく光っていた






床に臥した愛しい恋人は似つかわしくない穏やかな笑顔を浮かべ、毎日毎日を過ごす


マフィアという世界に足を突っ込んだ時点でそれなりの覚悟は出来ていた

例えば自身の死とか想像を絶する痛みとか


大して怖くはない。何せ僕の人生はあの幼少期で終わるようなものだった筈だったから

ただ僕は馬鹿で予想もしなかった
できなかった。したくなかった

愛しい人を失う覚悟


「骸、少しだけ薬を増やしてくれない?」
「辛いですか…?」
「いや、平気」

嘘みたいに痩せて弱々しくなっていく恭弥くんは強がりを忘れてはいなかったけれど、それでもどんどんか細くなっていくのが判る
もう、長くないと判る



盛られた毒は遅効性
敵の壊滅は成せようとも彼の体を蝕む毒を壊滅は皆無
ボンゴレの誇る治療法を使っても毒を抑え命を僅かでも長くするだけの薬しか作れない


綱吉がぽたりぽたりと流した涙を覚えている
弱虫な我らのボスはごめんなさい、って繰り返していた
恭弥くんは構わないよ君のせいじゃないだろ、とか君が毅然とした態度をとらないでどうするのさ、とか言っていた

それは彼なりのボンゴレへの恩赦でそして未熟なボスを護りきれない詫びなのだろうか

あんなにゆっくりだった僕たちの幸せはこんなに早く終わりを迎えるのだなんて実感すら湧かない

涙が溢れることもなく、事実と否定する思考回路がせめぎあって宙ぶらりんの気持ちが妙に居心地がいい

考えごとに虚ろになっている僕に気づいたかのように恭弥くんが手を伸ばして僕の手を握った

「ねえ、明日は何の日か知ってる?」
「明日、ですか」

恭弥くんが倒れてからはバタバタ忙しく、日にちを数えた記憶がない


先月で止まったままのカレンダーを剥がす


辛うじて覚えている朝のラジオから流れた日にちと曜日を思い出す

日曜日、つまり4日か


明日は…赤い印がついた日


「あ…恭弥くんの誕生日…」
「やっぱり忘れてた」
「ごめんなさい僕ったら」
「いいよ、忙しくさせてるのは僕だし」
「そんなこと…あ、何か欲しいものはありますか?」
「要らない」
「そう言わずに。何でも言って下さい」

すると少し思案し、僕の目をじっと見た

「じゃあ、傍にいてよ。あともう少しで明日になるし」
「そんなこと当たり前です。あなたの傍を離れませんよ」
「ずっと手を握っていて。其れだけでいいから」

コチコチ、刻む時計の音しか聴こえない


しばしの沈黙の後、恭弥くんはゆっくりと口を開いた


「僕は誕生日をあまり重視してた訳じゃないんだ。むしろ嫌いだった。独りぼっちで歳をとる瞬間世界中で僕だけが祝福されず生まれてきた気持ちになるから」
「恭弥くん…」
「だけど、骸に会えた日から独りぼっちじゃなくなった。君と過ごした日々も君と迎える誕生日もそんな長い時間ではないけど、君に出会った瞬間から僕は生まれたんだ」
「僕も一緒です。恭弥くんと過ごす日々があるから僕は生きてることを実感する。こんな能力を持っていても自分が人間であると信じていられる」
「どうやら僕らはやっぱり似た者同士みたいだね」
「同感です」

ふふ、と笑った瞬間恭弥くんは僕の手を引っ張って、キスした

「僕は骸に出会えたことに感謝してる。またこうして一人じゃない誕生日を迎えられることが僕の幸せだ。だからもう充分なんだよね」

疲れたようにふう。と長い息を吐いて恭弥くんはまたベッドに頭を預けた


「愛してるよ」
「やですよ恭弥くん、らしくない」
「そう?」
ゆっくりと笑った恭弥くんは酷く遠い


「ねえ骸、君はまだ若いから新しい恋人を作るだろうね。だけどこの日だけは、僕の誕生日だけは一人で僕だけを想ってよ。骸以外僕を想ってくれる人なんかいないんだよね。お願い」
「恭弥くん、何を言うんです!僕は恭弥くん以外の人のところなんかいきません!」
「いいよ、だって僕は死んでしまうから」
「それ以上言ったら恭弥くんだって容赦しませんよっ!」

言い切った後、余りに悲しそうに笑うあなたが僕をみるから僕は何故だか胸が苦しくなった


「骸、判ってるでしょ?君だって。僕は死んでしまう。消える。居なくなる。終わってしまう」
「やめて、くださ…い」
「耳を塞がないでよ。逃げないで。そんなに悲しいことじゃない」
「嘘です!恭弥くんがいなかったら僕は…僕は…」

自覚するのが怖かった
あなたが僕の傍から永久に失われてしまうのが耐えられない
こんなにもまだ愛しているのに


「僕は別に死んだからって君の傍を離れる気はないよ。君の傍にいる。だから一緒に誕生日を祝おう」
「ずっと、ですか?」
「うん、ずっとだよ」


死よりも遥かに強い想いがあるから
形が変わってもずっと


「そうですね…恭弥くんが傍にいるなら、」

あなたに会えた奇跡はこれからの人生よりも鮮やかでそして確かな僕の生きる証

「また来年も一緒に誕生日を迎えようよ」
「はい」
「愛してるよ。ずっと」
「はい」
「泣かないで」
「は…い」

止まっていた涙が堰を切ったように一気に溢れてきた

確かにあなたは居なくなるから。僕はもう判ったから
キスして抱きしめて抱きしめられて、それはもう叶わなくなるけど
つのる想いの分だけ僕は生きて、あなたの分も生きて、そして一緒に歳を数える


いつかもう一度キスして抱きしめられる日まで


「恭弥くん、恭弥くん、生まれてきてくれてありがとう御座います。僕を愛してくれてありがとうございます」
「うん、骸こそ僕の傍にいてくれてありがとう」

あなたがあんまり笑うから、僕も笑った

「最後に我が儘言ってもいい?」
「はい、どうぞ」








「骸は、生きて。そして幸せになって」














ばいばい






時計の針が12時をまわり、大きな音が鳴り響いた

ぱたりと落ちたあなたの手はもう自らの意志で動いて僕を求めないのだろうと、だから代わりに僕がその手を拾い上げ握り締めた


あなたはまた歳をとって、そして時間は止まった

安らかに逝くものだから僕は泣きながら、笑った

彼の微笑む姿を思い出すたびに涙が溢れた
彼の微笑む姿を思い出すたびに笑みがこぼれた

あなたに愛された、それ以上の幸せなんかありはしない

だけどあなたが望むから幸せになりましょう
あなたが望むから僕は生き続けましょう


幾度も繰り返すあなたの誕生日には必ず祝いの言葉を添えましょう



まだ温かい恭弥くんの頬にキスをして、ゆっくり僕も目を閉じた

もうしばらく、このままで




「ハッピィバースディ、恭弥くん」







E N D



5月5日
ヒバさまハピバ!&壱万ヒットThanks!









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