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もういちどだけ愛を囁いて(ブン赤)







いつか終わる自覚はあった
曖昧な始まり
唯の好奇心



…行かないで下さい


ほら、単純な話
ちょっと興味を引けばいい
「ねぇ丸井先輩、今日ウチ来ません?」
「は?なんで?」

美味しいお菓子があるとか新しいテニスの雑誌が手には入ったとか嘘をつけば丸井先輩はすぐに目を輝かす

にっこり笑ってみた
少し、丸井先輩の頬が赤くなった気がした

ほら簡単


ノンケで男なんか初体験の丸井先輩
それでも少しリードしてやれば、あっという間に俺の虜


楽勝楽勝


別に俺は女が嫌いなワケじゃない
ただメンドくさいだけ
男なんて欲求の塊で増してや中学生、我慢なんて言葉は抑制にもなりゃしない
生憎俺には一晩だけの女もいねーしいちいち口説いて毎回毎回アイシテルだのカワイイヨだの言うつもりもさらさらない

だから非常に困っていた



そして最もラクな方法をみつけた


幸い俺は男を拒絶する本能を忘れてきたみたいだった
テニス部には腐る程カッコよくて後腐れ無さそうな奴ばかりだった
てか男相手に後腐れも何もあったもんじゃない


手当たり次第声をかけた
単刀直入に言ってもヤツらは俺を満たしてくれた

ホントは俺が掘りたかったけどそうもいってられない
気がつけば俺は男に抱かれるのが快感になってた


だからちょっと高度な事がしたくなった
俺はスリルのある事が好きだ
だから丸井先輩をオトしてみようと思った
丸井先輩は俺に優しくしてくれてオマケに面白い

案の定、丸井先輩は癖になったかのように俺を抱くようになった
丸井先輩も満足、俺も満足
全く問題なし


学校だろうと部室だろうとお構いなしだった
ただ自分の欲求に素直に生きてみるだけ

さすがの丸井先輩もただの体だけの関係はマズいとか思ったのかもしれない
恋人みたいにデートもした
キスだけの日もあった
別に俺はそんなこと望んでもいなかったけど居心地悪いものじゃなかった


そしてどんどん堕ちていく



結局は巡り巡って俺らの本来の"目的"に 辿り着く

でも少しずつ、俺の予想もしなかった所で変化していった

最中に必ず丸井先輩は耳元で囁く


好きだ、愛してる、赤也が可愛い




大抵こんな言葉

それは最初はムードつくるためだと思っていた
俺もっす…先輩すき、とか口だけでも言ってみるそれが丸井先輩がすきな抱き方なんだと思ったからだ


だけどその曖昧に返す言葉は真実味を帯びはじめて、いつの間にか先輩の言葉に真剣に返す自分がいた

丸井先輩のすきって言葉に胸が締め付けられる
先輩の側に少しでも長くいたいと思ってしまう


それは間違いなく、俺の求めた関係ではなかった


でも何でも良かった
だって丸井先輩を独占して丸井先輩の愛の言葉を聞けるのは俺だけだったから





でも先輩はある日俺に告げた


「彼女が、出来た」


まるで恋してるみたいな苦しさが胸を襲った

わかってたはずなのに苦しい

執着なんてしてなかったはずなのにみっともなく丸井先輩のシャツにすがりついた

先輩の彼女は優しい瞳の物腰柔らかな人だった

そんな彼女に丸井先輩は毎日愛を囁くのだろうか


先輩を独占して先輩の愛を貰って、普通のカップルになった


どうして俺じゃ駄目なんスか?
とりとめのない質問、答えは決まってる

なのに丸井先輩は優しいからごめんって言う
何度も何度も赤也ごめんって言う

先輩はちっとも悪くないし、当たり前で至って普通の関係に戻っただけだ

けどそれは俺にとって非日常になってしまった


お願い俺を捨てないで下さい
久しぶりにぼろぼろに泣いた悔しいくらい涙は溢れてくる

先輩はごめんしか言わない
頭を撫でる手は変わらないのにそれはもう俺のモノじゃない



丸井先輩をふっかけたのは俺だった
下心ありありで近づいた

けどいつしか本気になってた


曖昧な始まりは一時の快楽しか生んでくれなかった

一番欲しかったモノ


もう届かない



泣きついて抱きついた先輩の体
忘れないように丸井先輩の匂いを覚える
あの時の丸井先輩の消えそうな声も全部全部鮮やかに


行かないでください



先輩がすきなんです



ごめん、と丸井先輩は謝り続けてた
もうとっくに先輩の事は許してるのに




すきって丸井先輩に言われる度にこの恋はいつか消えてしまうんだなと思った

だって始まりは曖昧で酷いものだったから


曖昧な境界線ははっきりと残酷に見えてきたけれど
辛くたって丸井先輩がすきだから

丸井先輩は本当に俺を一時でもあいしてくれてたんすか?



ねぇ、もう一度だけすきって言って下さい


そしたら俺はこの恋に息絶えることができるのだから



E N D





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あきゅろす。
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