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幼い頃の戯れな思い
けれど只、それだけを信じていた

『今一度さすけに会えたのなら、今度は後悔せぬように強く抱き締めよう。そして何度だって名を呼ぶのだ』


きっとどこかにいるはずの愛しき忍だけを信じて


待ち焦がれた



「アンタ、だれ?」


酷く面倒くさそうな、警戒をもはらんだ声色


「とりあえず鞄、離してくんない」

咄嗟に掴んでしまった手を払われる


「…すまぬ」

「で、アンタだれなわけさ。あ、もしかして二年前以降俺に会ってない知り合い?」

「…?」

よく回る舌は確かに佐助そのもの

「違うの?じゃあ何で俺の名前知ってたんだよ」
「佐助…でいいのだな…?」
「は?知ってたから呼んだんじゃないの?」
「いや、そうだが、」
「何なんだか。用がないなら俺様は帰るよ」
「なっ、ならぬ!」

きびすを返した佐助の制服をぐっと引く

「わっ、ちょっと!」




ちゃらり




「あ、」
「なんなんだよ!」


あの音は確かに聞き慣れた、

最後に佐助と別れた時から聴くことのなかったその音

「持っているのか」
「はあ?何をさ」
「六文銭をだ」


ざわり、風が吹き髪が躍る

変わらぬ明るい橙の髪からはふわり甘い香り

そして風に紛れて優しく鳴る音


「アンタ…なんでそれを」
驚いたように見開く碧の瞳

「違うのか?」
「いや…正解だよ。何で俺様がそれをもってるの知ってるわけ?」

過去に渡したからだ。などと言えば恐らく不審がられるだろう
もう、何度となくその不可解な目で見られてきた

「音が、したからだ」
「これの?」

Yシャツの襟を軽くずらす
首からは涼やかな音を立て六文銭の首飾りが零れ落ちる

懐かしい、古びた銭のそれは確かに佐助に渡したものだった



途端、目頭に熱いものが込み上げる


「わっ、ちょっとなに泣いてんの!」



焦ったように俺を見つめる佐助にやはり俺の佐助を重ね、ぶわりと涙が零れた



佐助は、ちゃんと俺の側に戻ってきてくれた
ちゃんと目印の六文銭をもって独りぼっちの自分のもとにきてくれた

俺の愛した忍は存在したのだ










『…んな、旦那!』

びくりと背後を向けば呆れ顔の緑の忍が木の上から覗いていた


「おお佐助!」
「おお、じゃないよもう。また勝手に居なくなってダメでしょ」
「いや、猫をみつけたのだ」
「猫さん?まぁた懲りずに追っかけまわしてたの?」
「俺は猫と和解したいのだ!」
「…なんか表現ちがくない?」

隣に降り立った忍は毛を逆立てる猫に優しく手を差し伸べる

猫は暫く佐助の白い手を睨むが、ゆっくりと近づき、ぺろりとその手を舐めた

まだらの毛並みを撫でながら柔らかく、佐助は笑った


「何で俺の居所が佐助にはわかってしまうのだ」
「ん?あぁだって旦那には鈴がついてるじゃない」

軽く笑ってちゃらちゃらと鳴る六文銭に手を這わした

「飼い猫、って言うよりは言うことをきかない虎子だけどね」

首飾りに戯れるように口付けた佐助を抱き寄せた








「あぁもう俺様なにかした?」


俺の胸元ではなく佐助のでちゃらちゃらと踊る音

「すま、ぬ。迷惑をかけるつもりではなかった…」

「しょうがないなあ…」


涙を拭おうとした袖を掴まれぐいぐいと引っ張って、雑踏を器用に掻き分け進む

「佐助?」
「なんかアンタはほっとけないんだってば!」

何なんだよもう、と零す佐助に笑いが零れた



今度は俺が佐助を見つけ出そう
例え俺を知らぬとも
その音が聴こえる限りは必ず

あの乱世で佐助にしてやれなかった事は全部今成し遂げよう


掴まれた佐助の手の低い温度はあの頃と一切変わらず、心地良く溶けた








『生まれ変わっても旦那にまた逢えるかな。その時、旦那は笑ってますか?』






To be continued…





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