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ちゃらり。涼やかな音色がきこえた気がした




「幸村ー早く起きないと遅刻よ!」
「うおおう!」


勢い良く跳ね上げた布団が虚しく壁に叩きつけられる

それにも構わず制服を慌てて着込み、卓上に置いてあるパンをくわえて髪を後ろで一つに結わいながら、靴を履いた


「行って参る!」
「気をつけてね」

母の言葉を背に学校までの道のりを駆け抜ける


「よう、幸村」
「おはようでござる!元親殿」
「元親でいいつってんだろ。お前、遅刻か?」
「そういう元親殿も」


あと五分足らずで教室にまでたどり着かねばならない

元親と共に階段を二段とばしにしながら、教室に向かう

長針がぴたりと止まりチャイムが鳴る

がらりと開けたドアから自分の席にダイブ

ぱさりと鞄が床に転がった時チャイムは鳴り終わった

「せ…セーフでござる…」
「もっと余裕をもって登校しろって言ったろう!」



しかし間に合ったにも関わらず、担任からは説教を食らった
ぴしりと鳴らす鞭の音に元親共々ただ謝り続けた

はあ、と溜め息を吐き窓の外をぼんやり眺める



それは繰り返す毎日

化学の計算式を読み上げる先生の声をBGMに青く澄む空を見上げる


それは変わらぬ、青


時として血を吸ったかのような赤に染めたその青は、今ではすっかり落ち着いた色になっていた



落ち着いた世
泰平の世界

17の月日を重ね、自分にも馴染み始めてはいた
しかし拭えぬ違和感

父も母も出会う人全て、旧知であるのに

戦乱の中、敵であったもの味方であったもの

今ではそれもなくただ側にある


自分は生まれた瞬間から過去を知っていた

戦乱の世のあの日々を

一つとして欠けることも色褪せることもない

ただ、自分だけが覚えている



「HEY!幸村、帰るぞ」

「すまぬ…今日は先に帰ってくれぬか」

「何だよノリわりぃなー」
じゃあな、と政宗と元親が小突きあいながら去っていく


取り巻くものは変わらない、なのにこの虚無感


考えれば考えるほどにそれは現実味が薄れ夢見事へと変わる


帰り道のただなんとなく歩くこの人混みの中
変わってしまった空の高さ

全てはただの作り話ではないのかと
違う、と信じていた

これは確かな記憶で確かな過去であるはずなのに

(何故俺だけなのだ)


誰も、知らない



たった一つ、けして夢見ではないと。

そう、信じているものは自分の側にない

幾度も幾度も探したのに見つからない

そして輪郭がぼんやりとなるあの遠い日々


(お前を愛した過去はただの作り話だと言うのか)


がやがやとざわめく雑踏の中

停止し始めた過去の記憶に









ちゃらり。








、確かに響いた







「!?」



振り向いた先にははっきりと、忘れもしない明確に彩られた愛しき姿


薄緑の制服に身を包む橙の髪


永らく呼ぶことはなかった名が、口から零れ落ちた


「さ、すけ」



けだるそうに振り向いたそれは、確かに自分をみた







「アンタ、だれ?」












何故、自分だけがあの日々を覚えているのだろう









To be continued…




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あきゅろす。
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