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なんで…こんなにも


ほとんど地面と平行な目線からは散らばるあか


敵の紋を纏った亡骸たちから流れるあかも自分のまわりを全て覆い尽くして燃やしていくゆらゆら揺れるあかも自らの体から流れ出るあかも、全部全部全部違う


求めているあかはもっと鮮やかで、もっと躍動的でもっともっと…


「俺様って本当に馬鹿だよなあ」


あんなに近くて、手を伸ばせばいつでも届いたのに今更欲しいなんて


口付けしたかったなあ


思いたったら行動しなきゃ後悔するってやっとわかった気がする

もう届かない

あのあかにまた逢えるだろうか
戦忍に相応しい最後でしかない自分に嫌気がさして、それでも戦忍として味わうはずもなかったものを沢山沢山貰ったあの日々は自分の人生がそれなりだったと思えるものだった

「もっかいぐらい逢えると俺様は幸せ者だよねえ」
動かなくなった戦友とも呼べる黒い鳥をなぜては話しをする

どうやらどんなに体が使いものにならなくなっても口だけはいつもの如く達者らしい
そんな自分に改めて気付いて苦笑を隠せずくつくつと笑う
どんな顔をして自分の主は俺を見つけるのだろうかとか、その時主は泣いているのだろうかとかこれから誰が世話のかかる主を世話してくれるのだろうかとか心配事ばかりが何度もよぎっては声を張り上げそうになるが、そう心配しなくとも必ずあの主ならば大丈夫だろうと最初で最後にあの主を信頼してみた
そうでなければ泣きそうだったから

「まあ旦那は目立つから絶対見つかるよね」
あのあかは他の誰でもない猿飛佐助が守り仕え、そして愛した真田幸村それでしかないのだから


だからまた、いずれ…

「またね、旦那」





「佐助…?」


荒れ狂う炎の中、無数の屍の山の中、十数年側にいて、全て知り尽くしている忍を見た

見間違うはずのない、姿


声が聞こえたような気がしたのに、槍を捨て側に馳せ、倒れている佐助を見た時にはもう二度と名を呼ぶことはなかった


「佐助…?佐助?どうしたのだ。冗談であろう、疲れているだけであろう?」

いつものよう、やれやれ働かせすぎでしょーがなどと軽口を叩きながら目を覚ませばいい
そうしたら抱きしめてそれから陣地まで背負っていく
だから目を開けて欲しかった


けど、疲れが色濃く出て、しかし何故か酷く安らかな目元はもう動きはしなかった


「嘘だ…佐助!俺は信じぬ!佐助は死になどせんのだ!これから先、永劫側にいると、だから俺は安心して戦えると…だか…ら…」

透明な滴が頬を伝い、火のように赤い血の跡に落ちては、その色を薄めていく

『ほら、旦那今日の昼餉ですよ』
『まーた大将とやりあったんでしょ。ほら、血拭いてあげるから』
『俺様は旦那のものだよ』

『旦那にまた逢えるなら地獄だっていいんだ』
『でも、旦那は俺と同じ所にはきちゃ駄目。旦那はずっと太陽であって』


こんなにも鮮明に声は思い出せる
なのにもう聞けない


他のもののふであればたかが忍一人、この戦乱の世では仕方のないことであり、こんなにも気に病むことではないのかもしれない

けれど佐助は違う
自分の影にあっていつでも側にあって
失うことなど考えられなかった


『俺様は忍。旦那とは違うんだから旦那が気に病む必要はないの』

違う。佐助だから、怪我をしただけでも苦しいのだ
佐助だから失っては生きていけぬのだ

怒るだろうか、それでも追わずにはいられぬ。


身に持つ短剣を腹部に当て、引こうとしたが腕が動かない

「何故だ…何故動かぬ!俺は怖くなどない!」
しかし一向に腕は動かない

『ねえ旦那、旦那は自分に満足のいく人生を全うしなくちゃ死んじゃ駄目だよ。もし仮に俺が先に死んだら旦那を探そうにも旦那を見つけられない。旦那は太陽なんだからさ、いつでも輝いてなくちゃ、そしたら俺は必ず探し出すよ』


からん、と短刀が手から零れ落ちた


安らかに眠る佐助の頬に触れる

「佐助、お前は俺が生きて、人生を全うすればまた見つけ出してくれるのか」

ふ、と当たり前だろー任せなさいって、と胸を張りながら佐助がそう言ったように聞こえた

勿論目の前の佐助はぴくりとも動かないし、死んだ者の姿が見えるなど芸をもってるわけでもない

幻聴でも何でもただそれだけで、充分だった



「しばしの別れだ佐助、また逢おう」
血の通わなくなった唇に自らの唇を押し当て、そして首の六文銭を外し佐助の手に握らせた

もし、佐助が自分を見つけられなかった時、その六文銭を目印に探しだせるように


ちゃらりと場に似合わない爽やかな音色が静かな戦場に酷く木霊した



To be continued…



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あきゅろす。
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