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俺様は旦那の




それは上田城の鍛錬の庭


「はあっ!」
「やあーっ!」

「うおおみなぎるうあああ!」
「あっ、」


下から力を掛けられた竹刀はくるくると回転して遠くの土に突き立てられた

「さっすが幸村様!全くかないませんよ」
「なに、某などまだまだ未熟でござる」

真田幸村は鍛錬を兼ねて、兵士達に稽古をつけていた


「あの一本槍を2つも扱う程なのだから並々ならぬ稽古をしているのでしょうね」
「いつか俺も幸村様みたくなりてぇなあ」


「そっ某は何も…」

照れを隠せず着物の袖で顔を隠しつつ流れる汗を拭いた


「あっ、手拭いをお使いください」

白く太陽の光に反射するような手拭いを兵士は差し出した

「いや、某はいらぬ」
「しかし…」
「なに、袖で充分」


それにすらも兵士達は憧れの視線を送る


「もう、袖は手拭いじゃないよって何度もいってるでしょーが」

ひらり、幸村の頭に手拭いが落ちてくる

「佐助、某は手拭いなどいらぬのだ」

「駄目でしょ、袖が汚れたら誰が洗うと思ってんのさ」

まぁそれはいいんだけど、と言いながら何処となく橙の鮮やかな髪の忍が幸村の前に現れた

兵士達がざわめく
何せ辺りには草木一本すらないのだ
忍が隠れる場所などなかった
「流石真田忍隊隊長!」


ありがと〜とひらひら手を振り佐助は幸村の頭に乗っている手拭いで主の濡れた髪や水滴の浮く首筋をがしがしと拭いた


「旦那が風邪ひいたら元も子もないの」
「うぬう…しかし風邪などひくのは気合いが足りぬからだ!」
「濡れてたら風邪ひきやすくなるのは一緒でしょ!」
「うう…」

どうせ佐助が看病してくれるのであろう?と呟く

「もう、旦那は仕方ない子だねえ」
拭いて八方に広がった栗色の髪を優しく梳かしながら、主の幼さに忍は目を細めて少し、笑った



「ほらほら、甘味を用意しときましたよ旦那」
「なにっ!それは誠か!」
「縁側に置いときました」

急須と湯呑みと、団子が置いてある縁側へ一目散に駆け出す

もう本当に旦那ったら、ねえ?と兵士達に同意を求めつつ、兵士達にも甘味を配る


暖かな日差しが降り注いで今は戦乱の世だということなどすっかり忘れさせられてしまう


佐助は城からみえる広い空を見渡す

主が…ー幸村がいつの日か天下統一を果たしたのなら、こんな日が毎日続くのだろうかと

その時俺はまだ旦那の側にいるのだろうかと


戦忍は戦乱を失えば生きられなくなってしまう

暖かな日差しにくらり、目眩がした



「佐助、お前も食わぬか」

主の声に佐助は笑って、側へと馳せた

「俺様のはないからいいよ」
「なら一本やろうではないか」
「旦那の為に作ったんだから、旦那に食べてもらわなきゃ困るよ」
「うむ、そうか…しかし…」
「俺様のことは心配しなくてもいいから旦那はあんこの行方を心配してよね」

幸村の膝に落ちたあんこを指で掬って口に含む

あーもう旦那ったら、と口の端のあんこも拭った


その光景に兵士達が笑う


「もし無礼だったら切腹でも何でもお申し付けください!でも…」

兵士達は震えながら笑う

「なに?どうしたの?」

「いや、猿飛殿はまるで幸村様のお母上みたいだなと思いまして」

「俺様が母親?」
「あっ無礼でしたら何でも罰をお申し付けください!」

すると佐助はくっくっと笑った
「俺様が旦那の母上なんて笑えないよー」


兵士達はどっ、と笑う


「…違う」
団子を食べる手を止めて幸村はそう呟く
「佐助は某の母上などではない」


兵士達は笑顔の戻らないまま凍りつく


暖かな空気が瞬時に冷え切った

佐助はまるで心臓が浮いてしまったような感覚に襲われた


戦乱の世が過ぎてしまって、本当に泰平な世が来たとき、旦那の側で今のように笑っている自分の姿が上手く描けない

当たり前だ、俺は戦忍以外の何でもないのだから


「佐助は違う。佐助は某の…某の恋仲だ!!」


「…え?」

また不可解な表情をして兵士達は止まった

「旦那…?」

かあっと赤らめた頬で幸村は団子をがつがつと口に運んでいった

「佐助は某の細君になるのだ。母上では細君になれぬではないか」

浮いてしまっていた心臓がすとんとまた落ちてきた

佐助は照れたように笑う
「じゃあ俺様はずっと旦那の側で世話するの?」
「そうだ!母上ではいつか自立しなくてはならぬが、妻ならば永劫一緒ではないか」
「いつまで自立しないつもりなの?呆れた」

そう言ってまた幸村の口の端についたあんこを指で掬った

「だから今は苦しくとも、いつか泰平の世が訪れたのなら、またこの庭で皆で団子を食べるのだ。そして佐助もその時は一緒に食そう」


兵士達は幸村様ー!と歓声を挙げている

「俺様も?」
「当たり前だ!佐助がいなくては意味がない」


相も変わらず日の光は暖かに照らし続けている


「佐助、某はいつの日かお館様とそして佐助に泰平の世を贈るぞ。さすれば忍はいらぬ。只の佐助が某の側におればよいのだ」

赤らめた佐助の頬を愛おしそうに撫でた


まだ上手く描けないけれど、またこの庭で皆と騒いでいる幸村の隣に呆れ顔で立つ自分の姿が少しだけ見えた


熱くなった頬隠すように佐助はあんこのついた指を口に含む



「旦那ってば…甘いよもう」




end



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