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愛うらら


※梵→戦国→現パ








今 君に会いたい

今 君に






「うっ…う」

走り抜けた木々ががさがさと音を立てる
涙は極寒の中凍ってしまうのではないかという程大粒で流れ落ちる

深くしんしんと降る雪と自分からこぼれる嗚咽だけしか耳に届かない


母様、母様


物心ついた時には醜い右目があった
母様は梵の醜い右目が大嫌いだった




「生まれなどしなければ良かったのだそなたなど」

母様はそう、言った
泣いたらきっと母様はさらに厭がるから外へと飛び出した
追って来る家臣はいない

当たり前だ。梵は醜い忌むべき子なのだから





「…っ、かあ…さま…」


座り込んで雪を掴む。冷たくて静かな雪

なんでこんなにも苦しいの。なんで梵だけ

梵はいけない子だから?それとも要らない子だから?
ねぇこの気持ちはなに?








「梵天丸様」




静かな世界に低く澄み渡る声






「こ、じゅろ」
「こんなに冷えてしまって。さあ帰りましょう」

触れた小十郎の指を払う。そして左目で強く睨む


「梵が帰ってもだれもよろこばないから帰らない」
要らない子。なら名前なんてつけないで欲しかった



「本当にそうお思いですか?この小十郎がいるのに?」
「いつか小十郎だって、」

梵を見放す日がくるよ
梵を醜いって思うでしょう?




「梵は要らない子だから」


「梵天丸様!」




驚きびくりと肩が跳ねた

梵の前で小十郎が方膝を立てる
真っ直ぐ梵を見据えて





「小十郎は梵天丸様を必要としています。梵天丸様でなければ駄目なのです」
「梵…を?」


「貴方様が要らない子なら私も要らないものになってしまいます」




小十郎は梵を必要としてくれる?梵と一緒に、居てくれる?






「何処までもお供致します」



雪の降る大地での誓いだった













梵天丸という幼名から政宗という名を貰い成人しても小十郎は変わらず側にいた

いつの間にか変化した小十郎への感情は心地よく染み渡る

傍らに居る小十郎の名を呼ぶ。返事をして振り返る小十郎にkissをする

唇からこぼれる吐息が混ざる

なんて、幸せで悲しい気持ち

母様に盛られた毒と同じく苦くて、でも甘い真っ赤な果実の味

飲み込んだだけ侵食する優しい熱


いつか終わる日が来ても願ってやまない熱だった













明るく空を隠すピンクのネオン
見えない星
乾いた風
退屈な毎日


そして、隣にない熱



俺は待つ。けど在るのは無味の日常


ここは俺の場所じゃない
何度も何度も思い出す
深い森、凍てつく白い大地、お前の声




この時代初めて訪れる奥州は変わってしまったようで、でも吹く風は懐かしく前髪をさらう
おかえり、と白い大地が囁く

けど、お前は居ない




覚えてるぜ。母様に苛められて逃げ込んだこの森を。泣きながら走ったこの道を
俺は要らない子だったあの日
でもお前は必要だって言った

そう、いったのに




踏みしめる度に涙が溢れた
もう何百年も昔の話
みんな記憶の彼方に消え去り忘れてしまった戦国の空

でも俺は覚えてる。またお前に会うために

お前が俺を必要だって言ったんだろ?お前が居なきゃ俺は要らない子なんだぜ?忘れてしまったの?


真っ白な雪を握りしめる
流れた涙が溶けてゆく




あの日の小さかった俺が言えなかった言葉。ほんとはずっと言いたかった言葉。変わってしまったこの世界で言うよ



「梵を、ひとりにしないで」













「梵天丸様」









そう何百年経っても変わらない声が囁いた








触れた指先を今度は拒まない
優しい熱が頬に伝わる




変わってしまった空も気にならない
二人一緒ならどうでもいいんだ


だから

もう一度最初からはじめよう






なぁ、そうだろ?









ただ 君に会いたい

ただ 君に






愛うらら
(白い世界に芽吹く蒼の花)






song by Cocco






あきゅろす。
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