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君が愛し愛しとおもうあまりに





ぼんやりと天井を眺め、ぼそりと専属の忍の名を呼んだ

しかし、返事はない


ひと月前から、敵国の偵察に出払ってしまっているのは無論わかっている

しかしわかっていようとついその名を呼んでしまうのだ

自分の生活にこれほどまで影響を与えてるとは思いもよらなかった

愛しい愛しい忍
その茶目っ気たっぷりな声や橙の軽い髪を見たくて聴きたくて

いない忍の名を何度も呼んでしまう

静かなままの天井が、悲しい


諦めて真っ白な布団に潜り込むもすぐ側にない愛しい忍の気配をつい探す


自分の気持ちが落ち着くためのまじないのようにまたその名を呼んだ

「さすけ」

「なぁに、旦那」

「!!!? さっ…佐助!」
がばりと布団を跳ね上げ頭上から降ってきた声の主を目に捉える

「猿飛佐助、ただいま帰りました、っと」
ひらりと天井裏から降りて、主に片膝をつく

「いやあ、意外と調査が長引いちゃってねー。旦那はいい子にしてました?」
「佐助がいなくては悪戯しようにも出来ないではないか」
「あらら、俺様のせい?嬉しいような悲しいような…まあとにかくいい子にしてた旦那にお土産…」
腰巾着から取り出そうと下を向いた時、思わず幸村は佐助を抱きしめた

「旦那?」
「よく帰った」
「調査だけだったからね」
「ずっと佐助の姿を探していた。何度も」

橙の髪に口付けして強く強く抱く

「駄目だよ。そのまま着替えずに来ちゃったから俺汚れてる」

幸村の体を押し返そうとするが強く抱きしめられていて、離さない

「構わぬ。いの一番に駆けつけてくれたのであろう?」
「う…ん、そうだけど…ってくすぐったいよ旦那」

橙の髪を弄びながら白い、影を生きる佐助の日に当たらない首筋をはんだ


「佐助が帰ると悪戯したくなるのだ」
「じゃあせっかくいい子にしてた旦那への手土産はなしにしなくちゃね」
「そっそれは困る…!」

本気で狼狽しながら慌てふためく幸村が酷く可笑しくて、佐助は久しぶりに愛想笑いではなく心から笑った

仕事の時の張り詰めた緊張感が切れて、やっと武田家の柔らかい雰囲気を思い出す
暑苦しくも愛しい主

ひと月、いくら仕事でも長かった

強く芯のある声で自分の名が呼ばれないのがこんなに苦しくて寂しいなんて
仕事を終えて、上田城に帰った途端、待ちきれなくて旦那の部屋まで走った
夜中で主人はとうに寝に入っていると気づいて、こんなにも焦った自分に恥じて引き返そうとした時、愛しい声音が聞こえたのだ


「佐助…?」
抱きしめたまま、触れていいのか、それとも離さなければ手土産はくれないのか、といった困惑した表情でそう、名を呼んだ


どうやらひと月寂しかったのは主も忍も同じらしい


「仕方ないなあ、今日だけよ。俺様も団子も味わえるのは」

「さっ佐助ぇぇぇ!大好きだ!!」
「はいはい。知ってましたよ」




離れたら息も出来ない程に

君が何よりも愛し愛し




end





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あきゅろす。
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