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これだけの真実


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むくろ、


そう僕を呼ぶ度に泣きそうな目をするのはなぜですか?

はい、と返事をすると笑ってくれる。
でも
いつの間にそういう笑い方をするようになったのか、あの眉を寄せた笑顔で。

そんな笑顔じゃ
僕は物足りないのに。


あなたは一体何を怖がっているのです?
僕を抱き締めている腕が震えているのはなぜですか?


それは…僕には言えないことなのですか?






視線を動かせばあなたの短い黒髪と
憂いを含む茶色い瞳が見える。

心臓の音が聞こえそうなくらい
呼吸の規則正しいリズムが肌で伝わってくるくらい

こんなに近くにいるのに

心がとても遠い気がして不安になる。





「武は、何が怖いのですか?」


出来るだけ優しい声を出したつもりだったが、あなたの身体が動揺に震えるのが分かった。


あぁ
あなたを悲しませたくて言ったのではないのです。

ただ、もし何かに怯え迷っているのなら
ここに僕がいるということを知っていて欲しかっただけ。

その心の傷
完全に癒す事は出来なくても、舐めて血を止めることくらいは僕にだって出来るのに。





「この手を離したらさ、骸もどっか行っちゃうんじゃいかと思って」


俺の手の届かない所にな、
と彼は僕の肩に顔を預けると、力無く微笑んだ。

心がずきり、と軋む。


ここ数ヶ月の間に彼は大切なものをいくつも失った。


部下を 仲間達を
親友を 父親を


そして次は?






あぁ
恐れているのでしょう

この僕が死ぬのを





でも僕は死にません
あなたが望むのならいつまでも。
生まれ変わってでもあなたの元へ舞い戻りましょう。



これ以上あなたから
なにも奪わせやしない。




たとえ運命の女神とやらがいたとしても
愛しい人を傷付けるのなら僕は神にさえ牙を向くでしょう。





でも今、このことを伝えたら
あなたは笑ってくれますか?

10年前のような
まじり気の無い笑顔で





僕にはわかりません






だから

愛の言葉を囁くのです。



「武、愛しています」



これだけが
明日さえも不確かな僕達の、紛れも無い真実ですから。






あきゅろす。
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