さそり
「宮地くん宮地くん」
おいでと手招きされて座ったのは、ベッドの上。当然、俺は期待してしまうわけで、視線は横に座る部長の手と顔をいったりきたりしている。
「今日は何の日?」
「え?」
返事が遅いよ、と口をふさがれて両手を後ろに回され長いあの人の指に拘束される。この感じが、自分は好きだ。
自分の感情ではなく人によって行動を決められるこの気持ち。
「今日は、宮地くんの誕生日でした。」
手首を握る腕に力が入って、血流が阻害される。そんなことは、この人に祝って貰えるかもしれないという期待と比べたら大したことない些細なこと。
「右と左、どっちがいい?」
さっきはきちんと答えられなかったから、今度こそは、
「左、がいいです」
「わかった。」
ご褒美のキスを貰った後、目隠しをされた。実際部長が学校で使っているネクタイで、だ。
「ちょっとだけ、我慢しててね」
「部長、ぶちょう」
「なあに?」
声が少し遠くから聞こえる。
「キス、キスしてください」
もう一度近くに帰ってきて欲しくて、思いついたことを適当に口にした。
「がまん、」
結果、キスはできなかったものの、部長はベッドのうえに戻ってきてくれたらしい。左手をとられて何やら取り付けられる。期待で心臓がはちきれそうだ、これは、もしかして
「口、開いてるよ」
触れるだけのキスをくれた部長に手を伸ばす。少し腕を上げただけで触れたあたたかい体温に、すがりつきたい衝動をぐっと抑えこんだ。
「宮地くん、腕の、見たくない?」
答えなんて、1つだった。視界が急に明るくなって、見えたのは微笑んでいる部長の姿。
部長の手に触れている左腕手首には、皮のブレスレットが
「どう?気にいってくれたかな」
なんて、聞くまでもなかったね。抱き寄せられて、肩に顔をうずめた。頬に水色の髪が触れる。清潔感のある香りに、俺は包まれていた。
こんなに幸せを貰っていいんだろうか、
こんな感情を抱いていていいんだろうか、
「宮地くん、せっかくの誕生日でしょう?無駄なことは考えない。目一杯今日という日を楽しんで?」
涙がとまるまで目元を舐められた後には深いキス。自分から抱きつくと、背中には好きでたまらない人の腕が回ってきた。胸に顔を押し付けると、額からリップノイズ。顔をあげると、鼻が触れ合う距離まで部長の顔が近づいた。
「誕生日おめでとう」
その後の予定を尋ねられ、夜のデートへと誘ったのは自分からだった。
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