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てんびん
あの人を喜ばせるには、何を渡すのがいいんだろう。

花束?植物?受け取ってはくれるだろうけれど、その後の世話が大変だ。じゃあ服?秋物って使う期間が短いから選びにくいからボツ。大体、どんなものが好きなのかもわからない、じゃあストールなんかも駄目だな。

一緒にいた期間は長いはずなのに、こう改めて考えると、知っていることの少なさが露呈する。少しだけ凹んだら、プレゼントを考えよう。琥太郎先生の誕生日までで、買い物に行ける日は今日と明日しかない。

街を歩いていたら、何か思いつくだろうか。でも、俺が琥太郎先生にいいと思っても、あの人からしたら迷惑かもしれないし、


俺が、誕生日にこれを貰ってすごく嬉しかったように、琥太郎先生にも喜んでほしい。少し見つめてから、きちんと引き出しにしまい出かける準備をした。

久しぶりに出た街は、記憶とは違ったお店などもあって、新鮮で少し寂しい気もした。天秤をかたどった小物、というものはあるのだろうか。
一軒目の雑貨屋にはおいていなかった。アクセサリー屋が目に入る、が風呂に入るたび着けたり外したりを面倒くさがるかもしれない。

見たことない花屋さんを見つけて、なんとなく入ってみる。鮮やかな花の中、サボテンのコーナーが作られていた。まりものようなもの、山のようなもの、自分のサボテンのイメージより異常に小さいものもあった。

星を見ているのと似たような気持ちに、植物の緑はさせてくれる気がした。
この雲が、夜には晴れてくれるといい


結局日が傾くまで、店を一通り見て回ったが、これといったものは見つからず。
雲が薄いのか、通り抜けた夕日が目に眩しい。その光の他に、輝きを放つものが目に入る。
近づいてみると、ショウウィンドウの中にそれは置かれていた。




誕生日当日、生徒達や水嶋などと計画したパーティーがある。準備は万端だからそちらの心配はない。問題は、

「どうやって渡すのが、お前らはいいと思う?」

1つの鉢に並んで植わっている、サボテン達に話しかけた。こうすると、成長に影響があるらしい。

学校に着いても、俺は悩んでいた。目の前の水嶋は、とくに何も渡さないらしい。

「だって、何を渡せば喜ぶのか考えてもわからないんですもん。せっかく渡すなら、心から喜ぶ物を贈りたいじゃないですか。」

俺よりも、長い時間を過ごしてきた水嶋もわからないらしい。じゃあ俺が選んだプレゼントは、

「どうした直獅、今日はサッカーをして来ないのか?」


自信がなくなってしまった、俺からだと手渡しをする勇気も。保健室へ向かったのを確認し、そっと部屋に入る。

気づいてくれると、
少しだけの期待をして





パーティーを終えて、琥太郎先生と水嶋との3人で水嶋チョイスの店に行った。祝い酒を飲んで、部屋に帰って、何も考えずに寝た分、朝に反動が返ってきた。不安と期待が、いっぺんに。


表の望みの通りに、すれ違うこともなく時間は過ぎて、裏の望みの通りに、今俺は保健室の前にいた。手には書類。
いつも通りいつも通り、

「琥太郎せんせーっ」

「ん、どうした?」

パソコンに向かっているらしく、振り向かずに答えた人の元へ歩み寄る。足のテンポの5倍速く心臓はリズムを刻んでいた。

「この書類に、琥太郎先生のサインを入れて貰わなくちゃいけないんだけど、」

「ああ、これか」

琥太郎先生は、胸元のポケットからペンを取り出してサインを書いた。

「はい、できたぞ。」

「…あ、サンキュ、ゥ」

「これ、なかなか書きやすいな」

うまく返せない俺を見ながら、にっと笑って、琥太郎先生はそう言った。

「デザインも悪くないし、ありがとう。重宝する。」

それにしてもお前、本当に獅子が好きだな。なんて言葉が、聞こえて、嬉しくて笑顔が勝手に出てきた。

「へへ、その獅子格好いいだろ!一目惚れだったんだー!」

本当の理由は、俺とサボテンが知るだけでいい。
胸元に光る獅子を見る度、俺は今日のこと今の気持ちをを思い出すことだろう。それだけで、よかった。




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