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しし
「せんせい!」

始まりは、可愛い可愛い生徒の一声だった。

「おう、東月どうした?」

普段しっかり者がたまにみせる子供らしさは、手を伸ばしてあげたくものがあると思う。走ってきたのか、襟が立ってしまっているのを直してやった。恥ずかしがる姿が微笑ましい。

「あ、すみません。で、あの…先生っ」

「ん?」

「誕生日、おめでとうございます!」

差し出された手には、手作りらしきクッキー。そういえば、東月は料理が得意だったと思い出す。

「うおークッキー!これ手作りだろ!?ありがとなっ」

頭を撫でてやれば、一瞬固まった後赤くなってから綺麗に微笑んだ。

東月の来訪をきっかけに、会う度会う度に祝いの言葉を、生徒から、先生からいただいた。ほくほくと過ごした1日の最後に、いつもの場所へ向かった。

「こーたろーせんせーっお茶をくれーっ」

「遅かったな直獅」

「、え?」

「今日あいつは生徒会の会議らしくてな、俺だけで寂しいだろうができるだけ楽しんでくれ」

飾り付けられた保健室、ケーキにはろうそくに火が灯っていた。椅子に腰掛けて微笑んでいる姿が、霞んでゆく。

「こら、泣くなら扉を閉めて火を消してからにしろ?」

優しい声に導かれて、べそべそと泣きながら近づいていく。火を消して、ティッシュを渡されて背中を撫でられる。

大人なのに、だとかは今は後回しだ。幸せは集中して噛み締めなくちゃ勿体無い。この人があと何回、俺の誕生日を祝ってくれるのか、あと何年、一緒にいられるかなんて、わからないんだから。

「おめでとう、直獅」

いつまでもグズグズしている俺に怒ることもなく、背中を撫で続けながら琥太郎はそう言ってくれた。たくさん言われた言葉なのにこうも違うものなのか、ありがとうと言ったつもりだけれどちゃんと聞き取れるものだったかはわからない。ただ、優しく微笑みながら頷いてくれたのは、わかった。

その後会議を終えたあいつや生徒会メンバーが来て、ケーキを食べて、まさかの水嶋からの電話に南で騒いで、部屋に戻った時は、酒を飲んだ後のようにふわふわとしていた。ベッドになだれ込むと、ポケットに違和感

「え」

いつの間に入れられたのだろうか。リボンに括りつけられたタグにはハッピーバースデイの文字。真面目に書くと字が旨くてだけど面倒くさいから筆記体。

「……」

勿体無くて開けられなかった。一気に現実に引き戻されて、そっと枕元にプレゼントを置く。

お風呂に入ろう、明日お礼を言う為に落ち着いて一回落ち着いてからゆっくりと包装を開けよう。
立ち上がって、振り返って箱があることを確認する。今日のお湯は、いつもより熱いものにしよう。今日だけはお酒を飲まないようにしよう

この胸の高鳴りを酒で曇らせないように。



次の日、襟元に獅子のブローチを付けて学校へ向かった。気づいてくれるだろうか、気づいてくれなくてもいい、その時は、俺から誇らしげに伝えるから。




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