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ひつじ
「ごめん一樹、ちょっと腕、上げて貰える?」

「あぁ」

腕が背中に回った、長い指が布越しに触れるのを感じる。
畳の香りに混じって、誉の匂いがした。

実家に行きたいと、言いだしたのは自分からだった。何処か行きたい所はあるかと聞かれたから。誉専用だという離れの一室に着物を並べ、色肌触りを選び仕立てて貰う。


紺なのに淡い着物姿の誉は、いつもよりも大人の色気のようなものを感じる。制服姿で茶を立てるのも魅せるものがあったが、此方は此方でまた違う新鮮な印象を与える。

家に着いてから微笑みっぱなしの誉は、ご機嫌で容態は良好。昨日は胃腸の様子が余りよくなかったらしく不安がよぎったのだが、この分なら一安心だろう。

「はい、できたよ」

「お、サンキュー。どうだ?似合うか?」

目を細くしてより笑みを深くした誉が、鏡を覆っていた布を取り払った。

「一樹は、どう思う?」

意地の悪い顔だった
その笑顔の、和服に栄えること。

「ま、こんなものだろうな。俺様に似合わない服なんてないぜ」

「そうだね、その通りだと、僕も思うよ。…本当、よく似合ってる」

すっと寄って来て、襟元を撫でて、そう言った。
直後、俺の元から離れてお茶でも立てようかと準備を始めた。微かに見えたその雰囲気は、俺の、気のせいだったのだろうか

「……」

期待したのは俺だけだったんだろうか。いや、

「一樹?どうかした?」

そんなはずがない。

押し倒して唇を奪う、クッション代わりに手を頭に回すのも忘れない。いつも誉が、そうしてくれるように。

「誉は、嫌か?」

「嫌だったら悪い」

「だけど、止められそうにないから」

俺がその気に、させてやるよ。上に座り着物を崩していく、なかなか上手く脱がすことができずにいると、俺の分は誉が脱がせてくれた。
これでもう、邪魔をするものは何もなくなった。





「…体中が、痛い」

男2人で入っても余裕のある浴槽の横で、頭を洗ってもらう。人に洗ってもらうのはどうしてこうも気持ちが良く感じるのか。

「布団を敷かなかったからだよ、もう少し待ってくれたら、用意したのに」

お湯をかけられながら、諭すように言われると、無理やり付き合わせたように感じて申し訳なくもあり

「悪かったな、我慢できなくて」

少し苛立ちも感じた。
ぶすくれた声でそう言うとお湯で泡を流され、それ以上何も言えなくなる。

「僕はすごく嬉しかったんだけど、やっぱり一樹が傷を作るのは嫌だから。」

こすれて赤くなった背中にキスをされて、俺はまた、何も言えなくなった。

手を引かれて湯へ向かった。後ろから抱きしめられて、湯の中で足が浮く
誉は何も言わない


「まだ、」

「うん?」

「まだ言われてないぞ、俺は。」

腰に回る腕を掴めば、耳元に頭を寄られた。

「今、言ったほうがいい?」

「いや、どうせ誉のことだからこれからの予定があるんだろう?だから別に今言わなくてもいい」

「それならお言葉に甘えてもう少し待っていて貰おうかな」

「誉は焦らすなー」

少し残念で少し寂しくて
声を出して笑った

「そうだね。僕は、焦らされて、我慢ができなくなった一樹が好きだから。」

びっくりして振り返ると、跳ねた水音が浴室に響く。そのまま川が上から下に流れていくようにキスをして微笑み合って、どちらも湯からあがろうとは言わなかった。




あきゅろす。
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