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痴鈍男は蜃気楼に縋る

指通りの良い髪を一束救って唇を寄せる。桜色の唇、薔薇色の頬。すらりと伸びる脚、抱きしめると柔らかい体。

「せん、せ…」

僕を呼ぶ
ソプラノボイス

あぁ、そうだよね
やっぱり相手はこうでないといけないよね。

固いよりも柔らかいほうがずっと抱き心地がいいに決まっているし、ピロートークとか、大っ嫌いだけど可愛い声の方がまだまし。
だいたいアレは本当に現実?いくら考えても辻褄が合わない、過去。夢だったんだろうな、にしても随分キモチイイ夢を見たものだよ、自分が怖いね。

押し付けられた仕事を適当に片付けて職員室を出た。外はもう夜の色に染まっていて、季節の移り変わりに少ししんみりなんてしてしまったものだから、ここぞとばかりに待ち構えていた昔が僕を取り巻いた。あぁ、面倒臭い。

目の前には人らしき影が1つ見えた。液晶ごしなんじゃないかと思うくらい遠くからソレを認識した僕。いや、していた僕。


「水嶋先生」

ソイツは、たった一言と薄っぺらい微笑みだけで、僕を無理やり画面の中へ引きずり込んだんだ。
驚きや他の感情が前に飛び出してきたものだから一気に引っ込んだ考え事。逃げられたかと思えば次は君?本当、勘弁して欲しいな。


僕は今すごく眠りたいんだよね、運動したし。
夢見も悪いし。


笑っちゃうよね
現実なはずがない。
あんなのが僕がした行為だなんて、僕自身は認めないよ。




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