錫也 期待はしていなかった 只、今日という日がいつもより少しだけでも…ほんのちょこっとだけでもいいから長い時間を共にできたら。それが一番のプレゼントとなのにな、なあんて考えていた。 「おかんおめでとー!」 「あれもしかして今日東月誕生日?おめっとさん」 「今年もクラスのおかんでいてくれよな」 教室に入れば友達からの祝いの言葉。あいつらもなんか企んでるようだし、俺は幸せ者だな。 そう…思うのに 「お前らー!さっさと席につけー!」 いつも通りに教卓の前に立つ先生。先生をいじるクラスメート達。俺も、あんなふうに先生と関わりがもてたなら、どんなに毎日が充実していたことか。クラス委員の仕事が無ければ、先生と俺が会話することなんてほとんどない。 ほんの少し前の俺は、 見ているだけでもあんなに幸せだったのに… 「おかーん!今日は特別に、俺らが昼飯おごってやるよ!」 「え、いやお前等に悪いから遠慮するよ。」 昼休み、いつものように食堂へ向かう途中友達に声をかけられた。 「遠慮すんなって」 「そーだそーだー!」 「いやほんと、気持ちだけで十分嬉しいからさ」 「人の好意は受け取っとくもんだぞ東月。あ、直ちゃん」 「おーお前等かあ、なんだなんだ東月モテモテか?」 「せ、先生!?何言って」 「今日おかん誕生日なんだよ、直ちゃん」 「そうなのか!?」 「嘘言ってどうするんだよ」 「あー、それもーそうだな。じゃあ東月、今日は先生が昼飯をおごってあげよう」 「えー!なおちゃんずりい!」 「俺らん時にはなんもしてくんなかったくせにー!」 「東月はクラス委員で頑張ってくれてるし、お前等と違って優等生だからな特別だ」 話が急過ぎた、だって夢みたいだ。偶然にも先生が俺の誕生日を知ってくれて、しかも祝ってくれようとしてる。声を発したら泣き出しそうな気がして、俺は何も言えなかった。 その後、動かない俺の腕を先生が引っ張って、今度は本当に泣きそうになって…先生の手があったかいのがいけないんだと思う。獅子座定食を前に2人で並んで食事。味なんてわからないけれど、すごく幸せな気持ちでいっぱいだった。 「そうだ!」 それまで楽しそうに獅子座定食について話していた先生が、急にそう言い出した。次の瞬間には優しい微笑み。俺の一番大好きな先生の表情 「東月、誕生日おめでとう」 忘れてたと眉を下げる先生に、きゅううと胸が鳴った。 嗚呼、大好きだな と思った。 |