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肩温もりを

ふわふわなメレンゲに包まれた何層にもなるパイ、フォークを入れれば、隠れていたリンゴがちらりと姿を表した。テレビで紹介されたアップルパイに、いち早く反応したアホ毛。

痛いくらいの視線の後は
猫なで声でのおねだり

こういう時だけ甘えてくるこいつは、骨格は男そのもののくせに、小悪魔?とかいうやつだと思う。
人がたくさんいる所はあんまり好きじゃないんだが、結局引っ張られて強引に乗せられた電車の中にいる。

さっきまでニコニコしていた隣のハーフがいきなり黙りこくったせいで、休日の午前、昼時もまだ先な今の疎らな客の電車内は車体が線路を擦る時の?まあ所謂がたんごとんという音しか聞こえない。何か話かけようか、話題は?いい天気だね?いくらなんでもベタ過ぎるだろ、俺。

居心地が悪くなってくる
降りる駅まではあと6駅

なんで次の急行じゃなくて各駅でもいいなんて言ったんだよ、あの時の俺!

ちらりとちらりと、頻繁に視線を投げてもぶつかることはない。なんだかそわそわ嫌な汗をかいて来たぞ。ちょっと設定温度が高めなんじゃないか?この車両!

このあいだまで、光を浴びてもあたたかさがわからなくて、太陽仕事しろの状態だったのに、今では背中をポカポカにさせる陽が恨めしい。首を捻って外を眺めた。
ビルの窓を伝わって太陽は更に俺をいたぶってくる。眩しさに細めた目は、次の瞬間に大きく見開かれた、と思う。

勢いよく振り向けば、確かに触れ合っている肩と肩。
隣に客が座ったので、少し詰めたんだろう。ただそれだけのことなのに、ものすごい緊張感が俺を襲った。ばくばく言っている心臓のせいで顔まで熱い。手汗が気になってぐーにしていた拳を解いた。

肩と肩、その小さな面積にすべての意識が集中する。隣の様子を窺ってみても、さっきとの変化は見られなかった。

なんとなくカチンときた
こんなにも意識しているのは自分だけなのかと、最初はぐるぐるしていたものの、考えてみればなんてくだらないことでイライラしているんだろうと恥ずかしくなった。

ちらりとまた横を向けば、こちらをじっと見ている羊の姿。

「哉太、何さっきから百面相してるの?すっごく面白いんだけど」

笑われている事見られていた事と今話せていること、それに

「ね、何考えてたの?」

絶対に答えられない質問をされたことで、俺の恥ずかしさは最高潮マックスだ。駅のホームが見えて、逃げるように立ち上がる。

無くなった温もりが少し寂しくも感じた




あきゅろす。
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