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喜びと愛しさと小さな想い
模擬練習から久々に緊張を解くことの家に帰ってきた。通り過ぎる街並みを見て3ヶ月経つが、相変わらず日本との価値観ならぬ土地観の違いには慣れない。

大きすぎるのも、心地よいものではないなとひしひし感じる。そこに魅力を見いだせないのかと言われれば、否と答えるのだが。
駐車場に車を入れて、大きな扉の前に立つ。それだけの行為にも、少しの苛立ちを覚えたり

自分の身長は、未だ高校時代のままだ


扉に手をかけた、開いているということは…



「おかえりあずさー!!」


自分の生活場所だとしっかりと認識できない廊下で僕を出迎えたのは、エプロン姿の見慣れた顔

「ただいま、なんでエプロンなんてつけてるの?」

何をしていたのを聞きたかったわけではなく、何故そんな行動を起こす気になったのか疑問に思った。翼は、料理が壊滅的にない、昔の先輩と同じくらい。


「ぬーん!まぁまぁ取りあえず着替えて来て!リビングにて待機してるから!」

荷物を奪われにかっと笑う姿に押されて寝室に入ったのはいいが、ここは日本ではない仕事場にいく服はキッチリとしたものという暗黙はないのだ。

「まったく、何を考えているのか…」

ベッドに腰を下ろし、先程のやり取りを思い出す。何度も何度も。
時計の進みを見て、そろそろ向かってもいいころだろうとにやけていた唇を引き締めた。




「これ…ほんとに翼が作ったの?」

目の前に並べられたのは、ちゃんと形になった料理たち。

「そうだぞー!ちょっと早いけど、お昼にするのだ!」

常日頃からアレなテンションの翼だけれど、今日はまた格別に高い。
何かの記念日だったろうか、記憶はないのだが。たまに可笑しな記念日を作るのが得意な翼のことだ、今回もそうなのかもしれない。


「いただきます」
「召し上がれ!」

向かい合って食事をするのどころか、顔を合わせて言葉を交わすこと事態が久々だからなのか、勝手に微笑んで、和んで、浮き足立っている自分がいた。
こんな時に、僕が自作の料理を口にするのをわくわくした顔で見つめてくる、翼のことが好きなのだと、大好きなのだという自分の気持ちを改めて感じる。


一口、ミネストラをすする。

「あ、」

「どう?どうどう!?」


「…おいしい」

素直な感想を言えば、目をまん丸にした後、目尻をきゅっと下ろして翼は笑った。言葉はいらなかった、どんな気持ちなのかは、その顔を見ればわかるから。

僕が誉めたことに気を良くしたのか、そこからは笑い声に包まれながらの食事を楽しんだ。
料理の味は、コトレッタもコントルノも、外食時とはまた違う優しい味がした。

後片付けは、2人でキッチンに立つ。
僕1人がやってもいいのだけど、翼がいつもやると言って聞かないから、デリバリー意外は2人で片付けるのが常だ。


「で?あの料理、いつの間に練習したの?」

洗った皿を渡しながら言う。洗うのは僕、拭くのは翼。これも、いつものこと。そんな些細なことが懐かしくて嬉しいのか僕も翼に負けないくらいの上機嫌だった。

「ぬふふ〜仕事場のおかんに教わったのだ〜!大変だったんだぞ〜お鍋の中身爆発するし、おかんには怒られるし」

「おかんてば、いつもはニコっニコで可愛いのに、仕事場と台所では鬼みたいにプンプンするんだ〜すごく怖かった!ぬいぬいのグリグリともそらそらのキーキーともまた違う怖さ!」

「でも、梓が帰ってきた時にあったかいご飯でお出迎えしたかったから、頑張ったのだ!」

「本当は、日本食にしたかったんだけど先生役もいないし食材も見つからなかったから」

翼の言葉を聞きながら、じんわりと火が灯ったように体があたたかくなる。嬉しい、すごく嬉しい

手短に手の泡を洗い流し近くにあった傷だらけの手を握った。

「前も、こんなに、傷だらけだったっけ?」

「そうだぞ、最近はちょっと大掛かりな計画にあたってたから」

「…ばか」

嬉しさとあったかさの中の感情、2つの衝動に流されて、翼を引き寄せた。力だけじゃ少し足りない距離は、背伸びを付け足して

翼の香りがした

回された腕に喜びが零れそうになる。

会いたかった
朝起きて寝てる阿呆顔を少し眺めて、瞼にキスをしてから、布団を剥ぎ取る
ぎゃーぎゃーいう姿にしたり顔を向けてからコーヒーを落として2人で宇宙食朝ご飯
その後は僕はランニング翼が出勤
借り部屋の前でお互いにいってらっしゃいをする。
別れてからすぐに、広い道路で翼の運転する車に抜かされて、見えなくなるまで


「つばさ、つばさ…」

全てを伝える代わりに名前を呼ぶ。声に乗って空中へ飛びたつ言葉には重たい気持ちが込められているのに、

「…会いたかった、会いたかったぞ」

「つばさ、」

こんなにも、僕に翼は会いたがってくれていたのに、待つことが辛くて寂しくて、少しでも紛らわそうと僕がいない間に苦手な料理を僕の為と想いながら頑張ってくれていたのに。
僕は、最低な感情を抱いてしまっている

肩に埋まる翼の顔を引き寄せて、喜びと謝罪と、自分の為のキスをする。



たかが料理をならっただけじゃないか
でも何処で?2人きりで?

芸能人にだって先輩にだって可愛いという姿なんて今まで幾度も見てきたじゃないか
先輩の時のように憧れで終わる保証があるのか?


翼、翼、つばさ

「ンつ、ばさ…」

ごめんねありがとう嬉しかったこんなに愛してくれてこんなに幸せをくれてありがとう、なのに

「すき、」

こんな気持ちを持ってしまってごめんなさい

「だいすき…」




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