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孤独な月を 神は笑った
QUATTRE



「“ドン・ボンゴレ”の座を貰おう」



その言葉に、ジョットは目を見開いて驚いた。とても信じられず聞き返したが、返って来たのは同じ台詞だった



「……何故だ、グロリア。お前は人間の権力に興味なんて無いんだろう?」


「あぁ、興味など無い。しかしこれだけ大きな組織の頂点に立つのはさぞかし気分が良いだろうと思ってな。ただの遊び[ゲーム]だよ」


「遊びで、この俺を裏切るのか…?グロリア、俺はお前を、」


「わたしは聖人君子ではない。退屈が酷く嫌いでね、おまえはわたしを存分に楽しませてくれたが、…そろそろおまえで遊ぶのにも飽きたよ」



凍てつくような冷たい赤い瞳で睨まれ、ジョットはその言葉が真実なのだと思った。少なくともグロリアは嘘を吐かない、彼はそう思っている


−−対価さえ払えば魔女であるグロリアも嘘を吐くと、彼はまだ知らなかった



「荷物を纏めて今日中に出て行け。ここは今日から、わたしのものだ」


「ふざけるな、こんな取引は無効に決まっているだろう…!!」


「取引?これは契約だ、今更取り消す事はできないよ。おまえと部下の命を救う対価に、おまえは何でもすると言っただろう」


「しかしっ、俺は…」


「…以前、何故自警団を作るのかと訊いた事があったな。おまえは、未来の為だと答えたはずだ。

ならば未来の為に身を引け。おまえの願いはわたしが叶えてやる。おまえはもう、ボンゴレには不要だ」





グロリアは所詮魔女でしかないのだと、この時ジョットは思った。心を通わせたと思っても、結局分かり合えるはずなんて無かったのだ


絶望に近い失望は、ジョットを深く傷付けた。死ぬまでボンゴレで生きると決めていたのに、よりによってグロリアにその権利を奪われるとは思いもしなかった



「…俺は、お前を赦さないぞ、グロリア。いつか必ず、この恨みを晴らしてやる」


「それは楽しみだな。期待しないで待っているよ。…わたしに関する書類は全て処分して行け、ジョット。次の首領が、わたしを頼らんようにな」


「当然だ、俺の大切な仲間をお前の玩具にするわけにいかないからな。…俺の子孫が、お前を殺すだろう。人間は、お前が思っているよりもずっと恐ろしい生き物だぞ」



最後に冷たい一瞥をくれてから、ジョットはグロリアに背を向けた。その身体にまとわりついていたあの黒い影は、もう視えなかった


代わりに、グロリアの周囲を不穏な影が漂っていた。去って行く友の背中を見ながら、グロリアは笑った



これでジョットは助けられたのだ。ボンゴレを離れれば、彼が命を落とす危険は無くなったも同然だ


普通の女と結婚し、子供を作り、平和で幸福な一生を過ごす。それはグロリアがかつて、ユリアンと描いていた理想だった



ジョットの命を救う対価が彼にとって命と同じ重さがあるドン・ボンゴレの肩書きならば、部下を助ける対価が足りなかった。過不足無く、対価は願いに釣り合うだけのモノでなくてはならないのだ


部下の対価は、敵ファミリーの命で払われた。1人戦地へと赴いたグロリアは、敵を皆殺しにして沢山の部下を無傷で取り返した


ともすれば、敵ファミリーを殺した対価は何なのか。人を殺す事は重い。例え人知を越えた魔女であるグロリアであっても、赦される事ではない



その代償は、グロリアの命だ。それもすぐに死ぬのではなく、散々苦しんだ末に、傷付いてボロボロになって生きる事に疲れた時、ジョットの言葉の通りに死を迎える


ジョットはグロリアの死を望んだわけではないだろう。しかし言霊に込められた思いはいつしか呪いとなり、宿命[サダメ]となった



グロリアは自分の命と引き換えにしても、ジョットの願いを叶えなければならなかった。対価を既に受け取ってしまったのだから当然だ


そしてそれが“魔女”であるグロリアの存在意義だから。ボンゴレの為に生き、ボンゴレの為に死ぬと、ジョットとの約束をグロリアは守ったのだ



グロリアは“ドン・ボンゴレ”になってたった1日で全てを終え、独りで城へと帰った。その跡はすぐにセコーンドが継いだので、表向きは何事も無く引き継がれたように見えるのだ


その時もやはり、グロリアは一切の証拠も跡形も残さず、ボンゴレを動かした。それを全て、ジョットの功績とする為に



雲雀達と出逢った事も、骸に六道輪廻の力を与えた事も、獄寺にお菓子を作らせた事も、ツナがグロリアの力を欲した事も、ランボが捕まった事も、白蘭が現れた事も、ツナがグロリアを殺した事でさえも、全て、グロリアの計算の内だった



それを全て終えて、ようやく、グロリアは唯一己を縛っていた呪縛から解き放たれたのだ




†Before†

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