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孤独な月を 神は笑った
TRE



「グロリア、写真を撮らないか?」



あの約束から数日、グロリアがシャドウと城で寛いでいると、ジョットがやって来てそう言った


グロリアは各地を転々とする事を止め、ジョットが対価として払った城に定住していた。お陰でジョットからグロリアに会いに行く事も可能になっている



「生憎わたしは姿が世に残るのが嫌いでね。悪いが遠慮させてもらうよ」


「そう言わずに、1枚だけで良いんだ」


「魔女が写真に映るのはおかしいと思わんか?わたしは見た目が変わらないんだぞ、変に怪しまれるのは迷惑でしかない」


「それは分かるが、ここまでボンゴレが大きくなる協力してくれたグロリアを語り継がないわけにいかないだろう?ボスだけに受け継ぐ秘密にすると約束しよう」


「……仕方が無いな」



ジョットがあまりにも食い下がるので、グロリアは渋々写真を取る事を了承した。すぐにジョットが連れて来たカメラマンが準備を始める


それを椅子に座って眺めながら、グロリアは傍らのジョットを一瞥した。彼はボンゴレのエンブレムが左胸に刺繍された上着に、マントを羽織っている



「写真の為に、そんな格好をしているのか?」


「ああ。子孫に残す写真に、情けない格好を晒すわけにいかないだろう?」


「おまえが正装するのを初めて見たよ。なかなか似合っているな」



ドン・ボンゴレとして相応しい格好をしたジョットはグロリアの傍らに立ち、その細い肩に手を掛けた。カメラマンが写りをチェックするのを眺めながら、わずかに微笑む



「グロリアはいつもドレスだな。良く似合っているが、動き難くないか?」


「もう慣れたよ。わたしはおまえ程喧嘩に明け暮れているわけでもないしな」


「ははっ、そうだな。…カメラの準備ができたみたいだ」



カメラマンの合図で、二人は綺麗に微笑んだまましばらく静止した。ネガに姿を焼き付けてから、再び動き出す



「…そう言えば、グロリアは写真に映るのか?」


「失礼な奴だな、ジオ。わたしはそこまでオカルトめいた存在ではないよ」



グロリアはジョットの顔を何となく見上げて、目を見開いて固まった。見たくないモノまで視えてしまうこの眼のお陰で、幾度となく嫌な思いをしてきた


だから今回も、いつものように傍観していれば良かったのだ。人間と魔女は、所詮相容れる事のない存在なのだから


ジョットの周りに蠢[ウゴメ]く“黒い影”が、彼を完全に覆い尽くす前に、手を打たなければ。この時のグロリアは、そう思ってしまった



グロリアは人間ではないが、神でもない。生き物の運命にも宿命にも、触れる事が許されるはずがなかった


その対価に、グロリアは、全ての物を失うのだ














滴る鮮血、硝煙、戦場の臭いに慣れたのはいつだったか。怒号、悲鳴、断末魔の叫び、どんなに汚い言葉で罵られても顔を背けなくなったのはいつだろう



お恐らくこの身は、もう汚れ過ぎてしまったのだ。今更清める事ができないのなら、いっそのこと真っ黒になるまで罪を背負おうと思った















それから更に数ヶ月の後、ボンゴレを最大の危機が訪れた。信じていた同盟ファミリーに裏切られ、大量の仲間を人質に取られてしまったのだ


相手の要求は、多額の身代金とドン・ボンゴレの首。ジョットは仲間が助かるなら、と守護者に申し出たが、ジョットが死んだ所で何百もの部下が生きて帰る保証はどこにも無かった





「……助けてやろうか、ジョット」



八方塞がりで身動きを取れなくなっていたジョットに一筋の救いの手を差し伸べたのは、他でも無くグロリアだった


足元に黒猫を連れ現れたグロリアは、この時酷く無表情だった。いつもと何かが違う、そんな違和感に気付けなかったジョットは、迷う事無くグロリアに縋った


グロリアは誰よりも良く知っていたのだ。人間とは、それがどんなに危険か分かっていても、目の前の細い細い蜘蛛の糸に縋らずにはいられないと言う事を



「対価が要るぞ、ジョット。おまえに払えるか?」


「ああ。俺にできる事なら何でもしよう」


「……そうか、その言葉に嘘は無いな?」


「男に二言は無い」



きっぱりと言い切ったジョットに、グロリアは笑った。それが、ジョットの前で見せた最後の笑顔だった





「良いだろう。おまえの部下と、おまえの命を救ってやる。後は相手のファミリーの殲滅か?…また今回は随分と数が多いな」


「敵に捕まってもう何十時間にもなる。早く助けてやって欲しい」


「…案ずるな。わたしにできない事など無いよ。それで、対価だが、」



グロリアには、ジョットの周囲を埋め尽くす程の黒い闇がとても良く視えていた。以前ユリアンの周囲に見えたものと同じ、あの影だった


時間が無かった。どんな犠牲を払っても、どんなに大きな対価を払っても、今度こそ助けなければと思った





「“ドン・ボンゴレ”の座を貰おう」





例え未来永劫嫌われる事になっても、殺したい程に恨まれても、グロリアにはやらなければならない事があった


その為に自分がどれ程苦痛な目に合っても、そんな小さな事はどうでも良かった




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