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孤独な月を 神は笑った
UNO



『…何故、忘れてしまわれたのですか』



ツナの炎がグロリアの左胸を貫き、赤い石が砕け散ったその瞬間、骸の頭に声が響いた


それはまだ記憶に新しい、シャドウの声。ツキノワグマになる前の、ウサギだった頃の声だった



『何故、覚えていてくださらなかったのです。何故、忘れる事ができたのです。あれだけ約束したのに、あの時誓ったのに。


−−貴方は、主を愛していたのではないのですか』



これは、シャドウにグロリアの城の地下に呼び出された時に言われた言葉だ。骸は前世でグロリアを愛していたと、恋人同士だったと言われた


しかし骸にはそんな記憶は無い。前世を覚えていなくても当然だと思うが、忘れないと約束したのだと言う



ならば何故、骸は忘れてしまったのか。それは当然、グロリアがそう仕組んだからだ


ユリアンが生まれ変わる時に、自分を忘れているように、決して思い出さないように、彼の未来をねじ曲げたのだ



その理由を知ったシャドウは、泣けなくなった身体で泣いた。ひたすらに、悲しくて、哀しくて、悔しくて。敬愛する主は、己の幸せを代償に、死んだ恋人の未来を買ったのだ



人の運命が神によって定められたものだとするなら、それを人間の手で変える事など不可能に等しい


しかしユリアンの生まれ変わりである“六道骸”が辿[タド]る道を視たグロリアは、それを何としてでも変えなければならないと思った


家族に見放されたユリアン然り、骸も本来なら孤独に生き、孤独に死ぬ星の元に生まれた。何百年も再びこの世に産まれる事を待ち望んだ相手が、どうしても幸せになれないのだと知った時、グロリアは膨大な対価を払ってでも骸を幸せにしてやりたいと思ったのだ



たった独りで待ち続け、その想いが叶わなかったとしても、どうせ間も無く死に絶える命なのだから、と



産まれてすぐにエストラーネファミリーに売られた骸に、六道輪廻を見せその力を植え付けた。もしこの能力が無ければ、骸はボンゴレに入る事はおろかツナ達と出会う事すら不可能だっただろう


非力でか弱い人間でしかなかった骸に力を与え、信頼できる部下を与え、唯一無二の仲間を与えた。今の骸があるのは、全てグロリアのお陰なのだ



しかし本人は、そんな事を露程も知らない。当然だろう、グロリアが決してバレないように努めて来たのだから。グロリアは永遠に、口を閉ざし続けるだろう



それが我慢ならなかったシャドウは、こっそりあの赤い石に術を掛けた。石が砕けたその時に、術が発動するように


グロリアが孤独に、無念のままに死んで逝く事だけは、耐えられなかった。せめてグロリアと特に関係が深い骸だけでも、真実を全て知らなければならないと、知る義務があると思った





『六道様。貴方にだけ、過去をお見せします。どうか、どうか主を、救って下さい…』



今考えれば、シャドウは最期までグロリアと共に居られないと分かっていたのかもしれない


だからこそグロリアに隠れてこんな回りくどい術を掛けたのだろう。シャドウはグロリアの、グロリアは骸の幸せを願った


ならば骸は、誰の幸せを願えば良いのか。グロリアの望み通り幸せになっても、果たしてそれで良いのだろうか



ゆっくりと沈み行く意識のどこかで、骸はグロリアの儚気な微笑みを思い出していた。グロリアはもうずっと前から、もしかしたら出逢った時から、こうなる事を知っていた


それでいて、骸と馴れ合っていたのは、グロリアも女心を捨てられなかったからだろうか。いつか終わる夢だと知りながら、ぬるま湯に浸らずには居られなかったのだろう



グロリアが骸を愛していたのかは分からない。骸は骸であってユリアンではないからだ。しかしグロリアは、ずっと骸を優しい瞳で見ていた





−−ああ、きっと自分はグロリアに心を奪われてしまったのだと、骸は思った




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あきゅろす。
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