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孤独な月を 神は笑った
SETTVE



グロリアはトリニティの魂ごと魔力を喰らい新たな力を得た。それはあまりにも巨大でコントロールするのは難しかったが、慣れてしまえば問題無かった


だが、グロリアは禁忌を犯した。“魔女”の間でも同族殺しは許されない事なのだ


魔女を統括する組織があるわけではないのでグロリアが罰せられるような事はないが、グロリアの魂は永遠に罪に囚われる事になるだろう



愛する者の為に、仲間に手を掛けた。それは“魔女”の間でも、決して許される事ではなかった



トリニティの魔力を完全に制御できるようになるまで1年近くあの洞窟に閉じ込められていたグロリアは、入口を塞いでいた岩を粉々に破壊すると真っ先に城を目指した


今度は馬車ではなく、空を駆けた。トリニティから譲り受けた力の1つだ



「ユリアン、シャドウ!!」



城は1年前と変わらず美しかった。シャドウの手入れが行き届いている証拠だ


エントランスからグロリアが声を張り上げると、どこかで声を聞き付けたシャドウがすぐさま駆け付けた



「グロリア様、ご無事で…!!」


「遅くなってすまなかった。おまえには連絡したかったのだが、身動きが取れなくてね」


「私の事はどうでも良いのです。それよりもユリアン様が…」



1年ぶりにグロリアと再会できたというのに、シャドウの顔色は優れなかった。グロリアのガウンを受け取るよりも先に、ユリアンの部屋に行くように言った



「…ユリアンに何かあったのか?」


「……グロリア様が出掛けられて3日後に、倒れたのです。医師にも診せたのですが原因も分からず、以来床に臥せています」


「倒れ、た…?」



シャドウに連れて来られたユリアンの部屋は、あの黒い陰で満たされていた。ドアを開けた瞬間溢れ出たそれの正体を、グロリアはこの時ようやく理解した


ベッドに静かに横になるユリアンは生きているのかさえ疑わしい程弱っているようだった。顔は青白く、呼吸も浅い



「ユリアン…?おい、しっかりしろ」


「食事を摂るのもままならず、身体は弱る一方で…。グロリア様に何度か連絡を取ろうと試みたのですが、梟は毎度帰って来てしまいました。

…私がついていながら、このような事になってしまい申し訳ありません」



シャドウの必死の謝罪も、今は耳に入らなかった。グロリアは気付いてしまった。視えてしまったのだ、ユリアンの“寿命”が



あの陰の正体は、ユリアンの命を蝕む物だったのだ。医者が見付けられなかったのだから、まだ解明されていない病だろう


気付いても、もう遅かった。グロリアにはユリアンがあとわずかしか生きられないと、見えてしまったからだ



「ユリアン、わたしと生きると言っただろう…?わたしを置いて逝くのか?」



グロリアが強く呼び掛けると、それに応えるようにユリアンが力無く目を開けた。青い瞳はどこか濁ったように見える



「グロリア…、そこに居るんですか?」


「ああ、わたしはここだ。遅くなってすまなかった、」


「グロリア、すみません…。どうやら約束を守れないみたいです。僕の骨は、貴女の薔薇園にでも埋めて下さい…」


「馬鹿を言うな、諦めてどうする!!」


「…妹が、見えたんです。僕はもう死にます。

最期にグロリアに敢えて良かった…」


「ユリアン…!!」



強く握った手を、ユリアンが弱く握り返した。こうしている間も刻一刻とユリアンの命が削られていると思うと、グロリアは涙を耐える事はできなかった





「−−グロリア、産まれ変わったらまた、僕を愛してくれますか?」


「…ああ、必ず。おまえを見付けて、おまえだけを愛そう」


「良かった…、グロリアの事は死んでも絶対に忘れません。だから、僕が産まれ変わるまで、待っていてくれませんか…?」


「分かった、約束しよう。何十年でも、何百年でも、おまえを待つと。おまえがわたしを覚えていたら、今度こそ永遠に愛し合おう」


「はい。約束…ですね」



最期に優しく笑って、ユリアンは静かに息を引き取った。最愛のグロリアに看取られて、彼にとっては悪くない最期だっただろう



ただ残されたグロリアには、悲しみしか無かった。グロリアが誰かを愛したのは、ユリアンが初めてだった



そして、何故ユリアンの側を離れたのか、己を責めずにはいられなかった。もしトリニティの魔力を奪ったりせず片時も離れなかったら、もしかしたらユリアンを救う道があったかもしれない



元から死人[シビト]が見えたユリアンは、その力をグロリアが消したとしてもそういったものの影響を受けやすい。若くして病気になったのも、そのせいではないと言いきれなかった


側に居れば悪影響を断ち切る事もできたかもしれないと、悔やんでも悔やみきれなかった





グロリアは人間の寿命が視えるようになった。瞬間移動も透視も先詠みもできるようになった


大切なユリアンの命と、数少ない仲間と、全ての希望と未来の光と引き換えに、グロリアは力を手に入れた。使い道の無い、膨大な力を




†Before††Next†

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