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孤独な月を 神は笑った
UNE



雲雀と骸は、まだ帰りたくないと駄々を捏ねるベルフェゴールを無理矢理連れて本部へと戻って来た


何が起きたのかさっぱり理解できなかったが、グロリアに命じられるまま城を出たのだ



「なぁなぁ、あいつ何者なわけ?っていうかオレは何で急に呼び出されたんだよ」



正体不明のグロリアに興味津々なベルフェゴールは、先程から何かと骸を質問攻めにしている



「…君が呼ばれたのは僕らと違って飛び道具を武器にしているからでしょう。グロリアにとっても脅威であるあの男に直接僕達が攻撃するのは得策ではないと、綱吉の超直感が働いたんですよ」


「ふーん。じゃああの剥製は?あの女、随分大事そうに抱き締めてたけど」


「あれは…、何と言ったら理解してもらえますかね。グロリアの唯一の友人であり従者であり罪の形。あの男が魔方陣を壊す直前まで、あの剥製は自分の意思で動き生きていたんですよ」


「…骸。つまりあの魔方陣は、」


「えぇ。恐らくシャドウをこの世に繋ぎ止めておく為のものだったんですよ。以前僕が地下室に入った時もやけに魔方陣の事を気にしていましたし、特訓の時もそうだったでしょう。

グロリアにとって、いえ、シャドウにとってあれは無くてはならない物だったんです」



鼠に引っ掻かれたら困る、とグロリアは言っていた。それは魔方陣が強力で、それでいて酷く脆いものだからだ


グロリアが蘇らせた人間だけで形成されていた“街”は、4つの魔方陣で維持されていた。本来なら8方位に必要だとグロリアに聞かされている


あれよりももっと複雑で大きな魔方陣で、シャドウ1人の存在を維持していたのだろう。グロリアにとってシャドウがかけがえのない存在で、なくてはならない人だったから



「シャドウって何者なんだろうね。ただの付き人ってわけじゃなさそうだし」


「それは僕にも何とも…。これ以上はグロリアに訊くしかありませんね」


「なら今すぐ戻って訊こうぜ、王子が代表で訊いてやるからさ」



くるっと後ろを向いて城へ戻ろうとしたベルフェゴールの襟を雲雀と骸が揃って掴む。首を絞められたベルはぐえっと潰れた蛙のような声を上げた



「…流石に今くらいは遠慮してあげなよ。グロリアの様子を見ただろ、しばらくそっとしておいた方が良い」


「そうですよ。恐らく1度魔方陣に傷が付いてしまうと、もうシャドウを蘇らせる事はできないんです。グロリアの心中くらい察してあげなさい」


「……お前らさぁ、いつからそんな他人思いになったわけ?」



どこか呆れたようにそう言ったベルフェゴールは、それでも2人の言葉に納得したのか大人しく綱吉の部屋に向かった


一応今回の件を報告しておいた方が良いだろうと思ったのだ。必要があれば、あの男の正体を調べなければならない


グロリアの“同族”という事はあの男も“魔女”なのか。いや魔女というのは魔力を持った女の総称なのだから“魔法使い”っと言った方が正しいのかもしれない



グロリアに関してはまだ分からない事が多すぎる。そもそも“魔女”という能力が不可解なのだ


多少人間離れした事をやってのける奴もボンゴレには居るが、やはりグロリアの能力はそんな中でも異質だった



他の誰にも真似できない。グロリアだからこそ成せる技。それを模倣してみせたあの男もまた、異質な存在だ





「そういやあの女、なんて名前?楽しそうだから今度遊びに行きたいんだけど」


「…あの状況を楽しそうと思える君が不思議だよ」


「遊びに行くのは構いませんが、グロリアが落ち着くまでは駄目ですよ。

彼女はグロリア・ウィンスレット。ボンゴレが目を着けた“魔女”です」


「“グロリア・ウィンスレット”?何、あいつ王族崇拝者なのかよ?」


「どうしてそうなるんだい。グロリアは王族も神様も信じてないよ、きっと」


「だって、“グロリア・ウィンスレット”って、昔国民に裏切られて殺されたお姫様の名前だろ?」


「……なんだって?」



一国の王子として産まれたベルフェゴールは、幼い頃に城の教育係から散々聞かされた話を思い出していた


国の為に好きでもない男の元に嫁ごうとして、国民に裏切られて死んだとあるお姫様の話だ


何が国民の為なのかを良く考えなさい、とあの教育係は言っていたが、ベルフェゴールには差して興味の無い話だった。何故なら彼は、国の為にも民の為にも生きてやるつもりはなかったから


ただ、なんとなく、そのお姫様は綺麗な女だったんだろうな、と。もし現代に生きていたらオレがお姫様にしてやったのに、と子供心ながら思っただけで





「…骸、今の話…」


「以前僕らが聞いた、死者を蘇らせるきっかけになった出来事と同じ、ですね…」



“グロリア・ウィンスレット”がそのお姫様ならば、今まで雲雀達が相手をしてきたのは一体誰で、何者なのだろう



−−1つ、2つとグロリアに対する不信感や疑問が降り積もっていく。それはいつか大きな不和となって、擦れ違いに彼らが気付いた時にはもう、取り返しのつかない事になるのだ




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あきゅろす。
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