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孤独な月を 神は笑った
DICIANNOVE



グロリアの意識が途絶えると同時に、彼女が作り出していた幻影も消えた。ヨーロッパ風の街並みはグロリアの部屋へと戻り、五体満足に見えていた身体は−−傷だらけで冷たいものへと変わる


その様子に狼狽えつつも骸はグロリアをベッドに運んだ。酷く軽く感じる身体は力無く骸にもたれ掛かっている



「…骸、窓の外がまだ真っ暗なんだけど」


「恐らく幻術と違い、時間操作はグロリアの意志の有無に関わらず効力があるのでしょう。グロリアが止めない限り、時間は止まったまま。

−−つまりグロリアに負担は掛かり続けるという事です」


「そんな…。じゃあ無理矢理にでも起こした方が良いって事?」


「それは僕にも何とも…。少なくとも先程よりは軽減されたはずですが、まだ辛い状況だと思いますよ。しかしグロリアを起こしたとして、雲雀くんの特訓が終わっていない以上また闘おうとする可能性は否定できません」


「…ちょっと、いくら僕でもここまで怪我した奴相手に闘ったりしないんだけど」


「雲雀くんはそうでもグロリアは分からないでしょう。グロリアの目的が分からない以上、こちらとしても動き難いですし」


「じゃあどうすんだよ。このまま放っておくのか?」


「……いいえ、ここは僕らよりもグロリアを良く知っている彼に聞きましょう」



骸が背後を振り向くと、丁度地下室から戻って来たらしいシャドウの姿があった



「…グロリア様?」


「先程特訓の途中で倒れたんですよ。幻術も解けこの姿に…。2、3、君に伺いたい事があります」


「六道様の仰りたい事は分かっていますが、それは私に訊くべきではありません。貴方が主に近付きたいと思っているのなら、直接問う事も必要なはずです」


「…君にも、まだ何か能力が?」


「私は主の能力の一部を譲与されているだけにすぎませんが、私がその能力を使えるのは地下室のみです。今の六道様の顔を見れば、何を言いたいのかくらい誰にでも分かりますよ」



そう言ってシャドウはグロリアの眠るベッドへと近付く。傍らのサイドテーブルの引き出しからいつもの白いバンダナを取り出し、そっとグロリアの頭を持ち上げ目元に巻いてやった



「時間操作は主の能力の中でもかなり高位なものです。主が1度発動させたらそう簡単に消えるようなものではなく、他人が介入できるものでもありません。主が自然に目を覚ますのを待ちましょう」


「しかし、それでは…」


「主は他人に弱味を見せるのを酷く嫌います。皆様のお心遣いは痛み入りますが、主の事を思うのであればどうぞお部屋にお引き取り下さいませ。後は私がお引き受けします」



冷たく冷やしたタオルをグロリアの額に乗せ、シャドウは部屋のライトを落とす。眠っているグロリアへの配慮だろう


このツキノワグマは長年グロリアに連れ添ったお陰で、この主人が何を考えどうして欲しいのかを誰よりも良く分かっているのだ


静かに眠るグロリアの顔色はやはり優れなくて、シャドウに言われなくてもここはそっとしておくべきだと誰もが思った


しかし、



「どうして僕らが君の言う事に従わなきゃいけないの?グロリアは城の中なら好きにして構わないって言ったはずだけど」


「…雲雀様、主は今大変弱っていて…」


「そんなの見れば分かるよ。でも、君の言う通り素直に部屋に帰って、それで何が変わるんだい。グロリアが無茶するのを誰かがやめさせない限り、きっとまた同じ事を繰り返す。…君はグロリアを止められるの?」



的を得た雲雀の指摘にシャドウはそれ以上言い返す事ができず閉口した。グロリアが自分を顧みず行動する事は良く知っている。余り度が過ぎれば当然進言するのだが、優し過ぎるシャドウはいつも折れてしまうのだ



「君、僕にあいつを助けてって言ったよね。それは君じゃ助けられないと理解した上での発言のはずだ。なら、ここで君がグロリアを介抱してるだけでは何も変わらないと、君は分かってるんだろ?」





「……あまりシャドウを苛めるなよ、雲雀恭弥。シャドウはわたしの為を思ってくれているのだ」


「グロリア様…!?いつから、」


「ついさっきだよ、シャドウ。…水を持って来てくれるか?少し喉が乾いた」



グロリアがそう言うとシャドウはすぐさま部屋を出て水を取りに行った。その大きな背中を柔らかく見つめながら、グロリアは無理矢理身を起こした



「グロリア、まだ起きては…!!」


「案ずるな、さっきよりは随分マシになったよ」


「なら時間操作を止めて下さい。いくらグロリアでも、これ以上は危険です」


「おまえがわたしの何を知っている?この程度でわたしは死なぬと何度も言っているだろう。術を解くにも色々と手順があるのだよ」


「…死なないからといって、身体に負荷を掛けるのが正しいとは思えません」


「おまえはそう思っても、わたしは例え死んでもやらなければならないのだよ。こちらにも都合というものがある」



そこでタイミング良く戻って来たシャドウから水の入ったグラスを受け取り、グラスは一気に飲み干した


白いバンダナに遮られて骸達には分からなかったが、生気を失い濁っていたグロリアの赤と青の瞳にわずかに輝きが戻る



「面倒な話は後にしようか。わたしは少し3階に行って来る。ここに居ても良いし部屋に戻っても良いし好きにしろ」



3階はフロア全てで薔薇を育てているはずだ。そこに行くという事は“食事”をしに行くのだろうか


ふらり、と覚束無い足取りで部屋を出て行くグロリアの背中を、雲雀達はただ黙って見送るだけしかできなかった




†Before††Next†

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