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孤独な月を 神は笑った
DICIOTTO



凶器[トンファー]を嬉々として構えた雲雀は興奮を隠し切れない様子でグロリアと向き直った


今まで未知の能力を秘めたグロリアと本気で戦った事は無い。ようやくそのチャンスが巡って来た、と雲雀は内心舌なめずりしたい気分だった



「…おまえはわたしを倒せたらそれで良い。人並み外れたその戦闘能力をより高め、誰にも敗ける事の無い程強くなれ」


「やっと本気の君と闘り合えると思うとぞくぞくするよ。良く分からない君の能力は使うのかい?」


「使っても良いがおまえの戦闘能力を伸ばす事には繋がらないだろうからな、わたしも体術のみで応戦しよう」



左手で器用にくるくると鎌を回したグロリアはストリートのど真ん中で雲雀と対峙する。観客であるツナ達は邪魔にならなそうな所へと移動していた



「制限時間は無し、どちらかが戦闘不能に陥れば…」



唐突にグロリアが言葉を止め、足下を見やった。雲雀からは特に何も無いように見えるそこをじっと見つめ、訝しむような表情を浮かべている



「…シャドウ、居るか?」


「はい、ここに」


「今すぐ地下に降りて様子を見て来てくれ。…鼠か何かが潜り込んだようだ」


「畏まりました」



物陰から現れたシャドウは再び影へと忽然と消えた。その不可解な会話に雲雀は眉をひそめる



「地下がそんなに大事?魔方陣があるって聞いたけど」


「あれを鼠に引っ掻かれては困るのだよ。密閉してあるから入れないはずだが、まあシャドウなら無事に退治してくれるだろう」


「ふうん、その魔方陣って何の為の物なの?前の街みたいに城を維持する為ってわけじゃないよね」


「さあな、…それより早く始めようか。あまり時間も無い」



すっと大鎌を雲雀に向け、グロリアはわずかに微笑む。それを挑発と捉えた雲雀は早々に会話を切り一気に詰め寄りトンファーを振り翳[カザ]した


ギィンと金属が鳴る。予想以上に雲雀の一撃が重かったのか、よろめいたグロリアは1歩下がってから右足を繰り出した



「君って左利きじゃないよね、手加減してるつもり?」


「まあな、おまえ相手にわたしが本気を出してやる必要も無いだろう?」


「…ナメてると痛い目見るよ」



怒涛の攻撃を仕掛ける雲雀の腕は残像で阿修羅の如く腕が何本も見える。雲雀が両手で畳み掛ける攻撃を片手1本で防ぐグロリアは、明らかに圧されていた


その証拠に徐々に後退しているし、なによりもグロリアの表情は苦悶としているのだ


グロリアのこんな表情を見るのは珍しかった。いつも余裕でどこか他人を嘲るような笑みを浮かべているのがグロリアだからだ


どんなに言葉で強がってみせても、グロリアが苦戦しているのは明らかだった。骸と戦った時のような、動きにキレが無い事に気付き雲雀は不愉快そうに眉を寄せた



これは手加減しているのではない。確実にグロリアは雲雀の動きについていけてないのだ



「…ねぇ、ちょっと…」



文句を言おうとした雲雀の視界が、揺れた。いや、雲雀の視界ではなくグロリアの姿が霞んだのだ


まるでテレビの映像が乱れたかのように、グロリアが2人に見えた。1人は先程までのグロリア、もう1人は血の気の失せた肌に傷だらけのグロリア


大きく目を見開いた雲雀は、それでも攻撃の手を緩める事無くグロリアを凝視した。今はどこにも異変など見当たらないが、爛[タダ]れた右腕や横に3つ開く左胸の傷は先週の特訓で負った傷だ



「君、身体治ったんだよね?」


「…見ての通っ…!?」



ガクン、とグロリアが膝から崩れ落ちた。左手を床に付き肩で荒い呼吸を繰り返す


血色の悪い肌はいつもの艶やかさを失い、死にかけている事は明白だった。それでも尚グロリアが生きているのは、彼女が“魔女”だからだろうか


流石の雲雀もトンファーを振るう手を止めた。先程まで見えていた五体満足のグロリアは影も形も無い



「君、その傷は、」


「…この程度でわたしは死なん、特訓を続け…」


「何馬鹿な事言ってるの?まともに立てもしないくせに強がっても無駄だよ」


「わたし、は…」



ゴボッとグロリアが口を押さえて噎せ返し、赤黒い塊を吐き出した。血塊のような、あるいは−−壊死した内臓の塊のような物を



「グロリア…!?大丈夫ですかっ…」



ただ事ではないと駆け寄る骸に、グロリアは大鎌の先を向けた。睨み付ける瞳は鋭いが無理しているのが簡単に見て取れる



「わたしに触れるな、このくらいどうとでもなる」


「そんな事はできません。…術を、解いて下さい。貴女の体にこれ以上負担を掛けるのはあまりにも危険過ぎる」


「解ったような口を利くなよ、六道骸。おまえはこの特訓の意味と必要性を理解していないのだ」


「なら1度傷を治してからにしましょう。それからでも遅くないはずです」


「…これは今でなければならないのだよ。この機会を逃せば手遅れになる」


「何を焦っているのです?貴女らしくない。…僕はもう逃げません。だから、グロリアも僕から逃げないで下さい。

1度、楽になりましょう。時間も戻して、傷も治して、体調が整ってからまた雲雀くんと戦えば良い。−−術を、解いて下さい、グロリア」



骸の大きな手がグロリアの視界を遮る。目元を覆われた事で脱力したのか、苦い顔をしながらもグロリアは身体から力を抜いた


CGのようにグロリアの術で構成されていた街並みが見覚えのある部屋へと変貌する



「…グロリア、今はゆっくり休めば良いのです。僕が側に居ます、安心して眠って下さい」



骸がそう言って冷たい身体を抱き締めると、グロリアは催眠術にでも掛かったように素直に目を閉じた


骸に身を任せたグロリアは、既に限界だったのかすぐに寝息を立て始める。骸その身体を愛おしそうにいつまでも抱き締めていた




†Before††Next†

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あきゅろす。
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