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孤独な月を 神は笑った
SEDICI



グロリアとリボーンが撃ち合いを始めて、既に数時間が経っていた。極度の緊張で気力や精神力は崩壊ギリギリ、あと1歩という所でなんとか保っている


物音に隠れる事は無意味だと知りながら、リボーンはゴミ箱のような木箱に背を預け息を整えた



予[アラカジ]め持って来ていた弾は既に撃ち尽くしてしまっている。しかしリボーンの銃は常にマックスの状態に弾が込められていた


どんなに撃ってもまるで弾が戻って来ているかのように弾倉が空になる事は無い。これもグロリアの能力なのだろうと思うと酷く不愉快だった



リボーンの銃は自動装填式、所謂オートマチックだ。1発使えば次の弾が自動的に準備されるという現代では既に主流となっている銃である


一方グロリアの使う銃はリボルバーと呼ばれる弾倉が回転する連動式銃だった。オートマチックよりも旧式な、弾を回転部に装填するのに若干手間と時間を要するタイプだ



そこから見い出した1つの勝機に掛けて、リボーンはチャンスを伺っていた。銃の特性を良く知るリボーンだからこそ見付けられた唯一の勝算



ジャリ、と砂を踏み締める音が聞こえリボーンは勢い良くストリートへと駆け出した。隠れているのが性に合わないリボーンは堂々と道の真ん中に立っているグロリアに向けて何発も発砲する


当たらないであろう事はもう分かっていた。照準は確かにグロリアに合っているのに、弾の軌跡が湾曲しているのだから


それでもリボーンが引き金を引き続けるのは自分のプライドが許さないからだろう。“最強ヒットマン”と呼ばれたこの自分が、正体不明の女に引けを取るなんて許せないのだ



十字路を駆け抜け再び壁際に身を隠したリボーンは反対側の壁の窓に映るグロリアの様子を伺った


荒れた地面をヒールで更に傷付けながら近付くグロリアは相変わらず嘲るような笑みを口元に浮かべている


リボーンが隠れている路地はすぐに行き止まりになっていた。つまりリボーンは袋の鼠と化しているのだが、本人はそんな事はどうでも良かった



あと少し、あと少しで終わる。角の向こうからグロリアが現れるのをじっと待ちながらリボーンは銃を構えた


照準を1箇所に定めただその時を待つ。緊張からかリボーンの細い首を一筋の汗が伝った。こんなに緊張したのはいつ以来だろう、とリボーンは思った


グロリアのロングドレスの裾が見えた瞬間、リボーンは素早く何度も引き金を引いた。窓硝子を割りサッシを抉り壁に穴を開ける弾はまるで雨のようだ


そんな中でも平気な顔をして立っていたグロリアはリボーンに向けて銃を構えた。リボーンの弾は1発もグロリアに当たっていない


逃げ場の無いリボーンにとってこの状況は明らかに不利だった。銃口が自分の頭蓋を捉え、リボーンの緊張も更に増す


最後に笑ったグロリアがその人差し指に力を込めると−−





ガキン、とグロリアの銃が嫌な音を立てた。弾は発射されていない。何事だ、と怪訝そうに銃を動かした一瞬の隙を突いて、リボーンは一気にグロリアに詰め寄った


振り上げた銃でグロリアの銃を弾き飛ばし、腹部を蹴り上げグロリアを突飛ばす。地面に倒れたグロリアに馬乗りになり、リボーンは銃口を額へと突き付けた



「…回転式銃の弱点は、弾の装填に時間が掛かる事に加え弾詰まりを起こし易い事だ。しかも外部からの要因で詰ま[ジャム]らせる事もできる」



少し離れた所に転がっているグロリアの銃は、弾が通る場所に瓦礫のような物が挟まっていた。先程リボーンが手当たり次第に撃った弾が撒き散らした破片の1つが、銃の隙間に入ったのだ


これでは使い物にならなくなって当然だろう。銃の性質を良く理解するリボーンだからこそ気付けた盲点。チャキっと銃を握る手に力を込めて、リボーンは上からグロリアを睨み付けた



「てめぇの目的は何だ、初代と一体どんな約束をした?」


「…さあな、まだそれを知るには早いよ」


「オレは知っとかなきゃならねーんだよ。ツナ達はまだ子供だ。導いてやる助言が必要だ」



リボーンから発せられる殺気は紛れも無く本物だった。“最強”の名に相応しい雑じり気無しの殺気。しかしグロリアは全く臆する事無くリボーンの瞳を見上げていた



「…そうだよ、それで良い。おまえはあいつらを率いる存在でなければならないからな」


「あ?何言って、」

     ・・・
「わたしが死んだ時、あいつらを助けてやれるのはおまえだけなのだよ、リボーン。あいつらはまだ幼く小さい。故に迷い立ち止まる事もあるだろう。

そんな時はおまえがあいつらを支えてやらねばならん。絶対的に、しかしあいつらが納得する形で治めなければならない。そんな事ができるのはおまえだけだ」



グロリアの言葉の意味を理解しきれずにリボーンが困惑していると、バタバタと足音が近付いて来た


背後で止まったそれはツナ達の物だろう。グロリアに銃を向けたまま、リボーンは彼らを振り向いた



「今までどこに居た?ツナ」


「多分場所はグロリアの部屋だと思うけど、モニターみたいなのでずっと二人を見てたんだよ。グロリアがリボーンに発砲したのを最後に映像が途絶えて、心配だから来てみたんだけど…」



つまり先程の会話はツナ達には聞こえていなかったのだ。何か聞かれてはまずい事があったのか、それとも 何かの不具合かは分からなかったが、少なくともリボーンは何か引っ掛かる物を感じた



「リボーン、もう、良いんじゃないかな…」



おずおずとツナが進言し、リボーンは今の状態を顧みた。グロリアに馬乗りになっているこの状態だけを見たら何があったのか勘繰るものだろう



「…おい、特訓はオレの勝ちで良いよな?」


「わたしは急所を撃てと言ったはずだが?」


「この状態で強がってんじゃねーぞ。どう見たっててめぇの敗けだ、それとも殺されてーのか?」



ぐっとリボーンが銃をグロリアに押し付ける。笑みを消したグロリアは真っ直ぐにリボーンを見ていた





「…殺しておかなくて良いのか?」


「……なんだと?」


「こんなチャンスは二度と無い、殺せる内に殺しておいた方が良いかもしれんぞ」



グロリアの手が銃を握るリボーンの手に添えられる。リボーンとグロリアの視線は交わったまま動かない。いや、−−逸らせなかったのだ


細い指が引き金に触れるのを理解しながら、リボーンはまるで石化してしまったように動けなかった




†Before††Next†

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あきゅろす。
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