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孤独な月を 神は笑った
QUINDICI



路地裏を模して作ったようなセットの中で、リボーンは壁を背に曲がり角の先にあるストリートの様子を伺っていた


リボーンの頬や腕には無数の切り傷−−いや、掠り傷があった。どれも皮膚を裂く程度の大した怪我ではないが、リボーンを焦らせるには十分過ぎる要因だ



シャドウに連れられて訪れたグロリアの部屋。何度も尋ねた事はあるが、今日はその内装が全く違っていた


中世のヨーロッパを彷彿させる街並みが部屋の広さを超越して広がり、土煙や風までがリアルだった。城の中なのに、グロリアの部屋のはずなのに、と混乱したのはリボーンだけではなくツナ達も含め全員だっただろう



壁に背を預けて立っていたグロリアは、口を開けて室内を、と言うよりは街並みを眺めているリボーンを見るとどこか小馬鹿にしたような笑みを浮かべた


そして、−−パンッ!!



「……ッ!?」


「特訓を始めようか、呪われし赤ん坊よ」



完全に意識が別の所に行っていたリボーンに、どこから取り出したか分からない小振りな銃を向けいきなり発砲した


ギリギリの所でそれに気付いたリボーンが咄嗟に避け、弾は黒い帽子を撃ち抜くだけに終わった。しかしもしリボーンが避けなければ、−−弾はリボーンの頭を貫通していただろう



「…てめぇ、いきなり何しやがる」


「昨日わたしの実力を訝しんでいただろう?手始めにわたしの腕を見せておこうと思ってね。

おまえはわたしと撃ち合うのが特訓だ。撃って撃って撃ちまくれば良い」


「そんな事して何の意味がある?オレは最強ヒットマンだぞ」


「…そう、それがおまえの弱点だよ。“最強”の名はおまえを蝕む毒にしかならない。上には上が居るという事を忘れては、おまえはいつか己の過信によって滅びるだろう」


「オレはオレを過信なんてしてねぇ。オレに勝てるヒットマンが居ないのは事実だろーが」


「さあ、それはどうかな。世界というのは広いのだよ、そして1つではない。狭くて小さいマフィアなどという世界の中で最強になっても意味が無いと思わないか?」


「それがオレ達の生きてる世界だ。狭かろーが小さかろーが、そこで生き残れりゃ十分だ」


「それも一理あるがな、しかしおまえ達はマフィアだけを相手に生きているわけではないだろう?笹川京子や三浦ハル、これから先出逢う人間がマフィア以外の何かである可能性は高い。

そいつらにも勝てなければおまえが“そこ”に居る意味は無いのだよ」


「…どういう意味だ?」


「今は分からずとも良いよ、その内理解できるだろうからな。…さあ、あまり時間も無い。特訓を始めようか。

ここはわたしが作った仮想世界、全てが現実であり全てが想像の世界だ。ここでおまえはわたしを倒さなければならない、急所を撃ち抜けばおまえの特訓は終了だ」


「そんな簡単な事で良いのか?だったらものの数秒で…」


「わたしを誰だと思っている?おまえの武器はその銃のみ。わたしは能力も使っておまえを攻撃するよ。言っただろう?“マフィア以外の何か”にも勝てなければ意味が無いと」




そう言って笑ったグロリアにリボーンが感じたのは、底知れぬ恐怖だった。今までの経験や教訓では解決できない、リボーンの実力を以てしても紐解けないような何かがグロリアにはある


感じるのは殺気ではない。それよりももっと鋭利で純粋で、凶悪な何か。未だに解読できないグロリアの能力を回避しきれるのか、リボーンはらしくもなく一瞬不安になった



そして始まったこの特訓と言う名の撃ち合い。一応グロリアも銃を使っているものの、自分の能力も最大限に生かしているようだ


瞬間移動なんて当たり前で、念力のように勝手に物を動かしたり街並みを作り変えてリボーンをどんどん迷い込ませる


ツナや雲雀達はどこかからこの特訓を見ているはずだが、少なくともリボーンからその姿を確認する事はできなかった



恐らくグロリアにはリボーンが今どこに居て次に何をしようとしているのか視えているのだろう。だから常に1歩先を行き先回りして攻撃してくるのだ



カタン、と頭上から小さな物音が聞こえ、リボーンが勢い良く仰ぎ見るとそこには建物の3階の窓からこちらに銃口を向けるグロリアの姿があった



「…くそっ!!」



慌ててリボーンが身を翻すと先程まで自分が居た所にタタッと小さな穴が開く。物音に身を潜めながらもグロリアに向けて発砲する


しかしグロリアはくすくす笑いながらカーテンの影に隠れてしまい、リボーンの努力は水の泡と化す


いつもなら当たるはずの弾が、当たらない。何度撃っても撃っても撃っても、あの魔女には掠りもしないのだ


自分には何度も弾が掠めているのに、動き難そうなロングドレスを身に纏ったあの魔女に、自分が劣っている。認めたくない事実にリボーンはギリッと唇を噛み締めた



瞬間移動や物体操作ができるグロリアとは違い、自分にあるのは長年連れ添って来た銃のみ。何よりも信頼できる最高のパートナーだと思っている



ならばこの相棒で魔女を出し抜く方法を考えれば良い。グロリアは能力を使ってもそれを直接自分に向けようとはしていないのだから、銃と銃での戦闘だと思えば良いはずだ



何か、何かあるはずだ。全てを掌握し見透かすグロリアに勝てる何かが。“最強ヒットマン”の己だからこそ勝てる何かが、きっと




†Before††Next†

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