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孤独な月を 神は笑った
DODICI



「グロリア様、やはり無理です…!!どうかご無理をなさらずッ…」



「馬鹿を言うな、シャドウ。おまえなら解るだろう?昨日1日を棒に降ったせいで残された時間はわずかだ。これ以上足踏みするわけにはいかん」


「しかしっ、そのようなお身体で…!!」



ベッドから無理矢理身体を起こそうとするグロリアを必死に説得しようと、シャドウは頑[ガン]として譲らない主を優しくではあるが強く押さえ付けていた


いつものように挑発的な笑みをたたえたグロリアの顔は、血の気も無く青白い。赤く熟れた林檎のようだった唇も紫色に変色している



「…案ずるなシャドウ、わたしがこのくらいで死ねぬとおまえは知っているだろう?」


「ですが、傷を治さねば負荷が掛かるだけです…!!その上彼らの相手をするなど…」



骸が負わせた傷は未だに塞がっていない。体内に血が殆んど残っていないせいで出血は少ないが、しかしだからこそグロリアが危機的状況にあるとシャドウは解るのだ


小刻みに痙攣する四肢を叱咤し、グロリアは立ち上がった。これ以上時間を無駄にはできないと思ったのだろう



「シャドウ、これはわたしに課せられた罰なのだよ。ヒトを苦しめ哀しませて来たわたしには軽すぎる罰だ。

    ・・・・・
わたしが死ぬまでに終えなければならぬ、最期の枷なのだ」



そう言って、グロリアは笑った。痛みも苦しみも全てを押し殺し、総てを終わらせる為に



















昨日の宣告通り部屋に迎えに来たシャドウは、山本達を演習場ではなくグロリアの部屋に連れて来た


グロリアに会える、とある種の緊張と期待に胸を踊らせた面々は、誰も居ない部屋を見て酷く落胆した



「こちらでお待ち下さいませ。じきに主が参ります」


「…グロリアは、無事なんですね?」


「今日の特訓の為の準備中なのです。すぐに…」



言い掛けたシャドウの言葉を遮って、突然部屋の奥の扉が開いた。誰も入った事の無いその未知の部屋から、金色の薔薇が咲くドレスを纏ったグロリアが悠然と現れた



「グロリア…!!」


「待たせたな、準備は良いか?」



不敵に微笑むグロリアからは傷の痛みも手負いの苦しみも感じられない。高圧的な雰囲気を漂わせながら骸達に歩み寄る


キャミソールドレスの大きく開いた胸元には、三叉槍の傷は見当たらなかった。それどころか、獄寺を助けたせいで負った右手の火傷の跡形も無くなっていた



「グロリア、傷は…?」


「…見ての通りだ。昨日1日わたしが何もしていなかったと思うのか?特訓に使う力を別の事に使う知恵くらいある」


「しかし、時間操作と治癒能力は同時に使えないのでは?」


「使えないよ、これは治癒能力とは違うものだからな。説明したところで理解などできんだろうから気にするな。少なくとも今日の特訓に支障は無いよ」



グロリアの傷が治ったように見えるのは、ただ単にそう“視える”ようにグロリアが仕向けているからだ


幻術に長けた骸や、それを見破れるツナやリボーンまでをも騙す程高度で洗練された幻


当然そんな事にまで力を使えばグロリアの身体に掛かる更に負担は増える。しかしグロリアはそんな事をおくびにも出さないで笑うのだ





「さて、今日の特訓だが…」


「俺と野球馬鹿なんだろ。俺らの特性は正反対だぜ?どうやって特訓なんて…」


「さあな。沢田綱吉、山本武、前に来い」



指名された2人は顔を見合せ、ゆっくりとグロリアに近付く。わずかに警戒している様子の彼らを気にする事無く、グロリアは傍らのシャドウから何かを受け取った


それを山本とツナの首に巻き付け、元居た場所に戻るように指示する。訳が分からない2人は互いの首を見て、さっきまでは無かったチョーカーのような物を発見した


じゃら、と大きな宝石が1つ付いた、ツナ達の首にあるものと同じデザインのチョーカーを軽く持ち上げ、グロリアは全員にそれを見せ付ける



「…これは爆弾だ。わたしの能力で作った簡易的なものではあるが、人一人殺すには十分過ぎる程の威力を持つ」



ひゅんとチョーカーを上に投げたグロリアが指を鳴らすと、大きな爆音を上げてチョーカーが砕け散った


当然付いていた宝石も砕け、細かい礫[ツブテ]が降り注ぐ。小さなチョーカーにも関わらず絶大なその威力に、ツナ達はしばし言葉も忘れて呆然としていた


「これと全く同じ物を沢田綱吉と山本武の首に付けさせてもらった。起動させるのはわたし次第、解除装置はこれだ」



グロリアは手のひらの中のアンティーク調の鍵を見せる。その様子に目的が分かったのか、獄寺が凄い剣幕でグロリアに掴み掛かった



「てめぇ、十代目の首になんて物を…!!」



空中で爆発しただけでも爆風と衝撃波はかなりのものだった。そんな物が人間の首で爆発したら、恐らくひとたまりもないだろう



「あいつらでなければ意味が無い。特訓を始めるぞ」


「ふざけんな、十代目の首から今すぐ外せ!!代わりに俺が付ける…」


「馬鹿が、それでは意味が無いと分からないのか?」



心底呆れたようなグロリアに獄寺は意味も分からず額に皺を作る。取り出していた解除装置である鍵をどこかへ隠し、グロリアは獄寺を見上げた



「おまえ達の特訓は“守り”と“攻め”。山本武は己の首の解除装置を手に入れる為にわたしを攻撃し、獄寺隼人は沢田綱吉を守る為にわたしを守れ。…反論は聞かない。やらないなら皆殺しにするまでだ」





強く言い放ったグロリアは酷く冷たい目をしていた。それが本心からなのか血の気が失せていたからかは分からないが、少なくとも感情の無いその目は何も語ろうとしなかった




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